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  • 開発者が語るおすすめ活用法第2回:おすすめは…ないです!

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    吉永:前回は、「eboardが生まれた理由」というテーマで、誕生のきっかけや教材の特徴について、話してもらいました。今日こそは、ズバリ「eboardおすすめ活用法」をお願いします!

     

    中村:「eboardおすすめ活用法」という連載なんですが…実は私は、先生が使い方を規定するものではないと思っています前回の記事でもお話した通り、eboardはその場面によって、その子によって、いろんな使い方ができるものなので、先生の役割は使う環境を整えること、だと思っているんです。一人一人が自分にあったやり方で学んでいけるようにサポートする。

    中村:もちろん、多くの子がツールを渡しただけで、どんどんできるようになるかというと、必ずしもそうではない。そこのサポートをしてもらうのが、先生の役割だと思っています。

     

    なので、使い方を考えるときに、活用事例ばかりに着目してしまうんですけど、まずは子どもを見て、子どもに合った環境で、その場に応じて使ってもらうのが1番じゃないかなと思います。場所や年齢は別でも、同じような使い方をしている子がいるし、逆に同じ場所で使っていても、全く違う使い方をしている子もいます。「個別化」というやつですね。

    情報保障ツールとして利用する

    中村:それを踏まえた上で、具体的な使い方をお話したいと思います。コロナ禍や不登校が増えている中で、本当にすぐにできるというのは、eboardを情報保障のツールとして使う方法です。

    情報保障:障害により情報を収集することができない人に対し、代替手段を用いて情報を提供すること。主に、視覚・聴覚障害者への配慮として用いられることが多いが、いつでも、誰も情報が伝わらない状況に陥る可能性がある。

    先生がいろんな配慮をしながら授業をされても、その場1回限りの授業って、子どもの認知の特性やその日の状況によって、情報の伝わり方にどうしても「かたより」が出てしまいます。今はさすがにそういう先生は少ないかもしれませんが、あまり板書を取らずに、ひたすら話をして講義をする先生っていましたよね。このようなスタイルの授業って、聴きとりでの学習が得意な子は理解しやすく、そうでない子は理解しづらい。視覚情報がないと、ついていけない子がいます。

     

    言葉を聞いて、語彙を認識して、意味のあるかたまりで区切る。そこから話をイメージする。前後の話との関係を理解する。こうしたことは、障害の有無にかかわらず、特性としての得手・不得手があるだけで、誰もが抱えているものです。もちろん逆に、耳での学習が得意で、目での学習が苦手な子もいます。

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    ▲ eboardの映像授業は「やさしい字幕」をつけることで、視覚情報を補っている。

    中村:そうした子が、実は複数教室にいることを想定して…例えば、授業の前や後に、eboardの映像授業のリンクをGoogle ClassroomやTeams、授業支援ソフトで送ってもらうだけでいいんです。あらかじめそれを見ると、事前にどんな内容をやるかが分かって安心して参加できたり、授業中わからなかったところを、後で動画で確認してもらえます。これはすぐにできるはずです。

     

    不登校だったり、ちょっと教室に入りづらい子も、こうすることでみんなと同じペースで学習することができます。さっき「個別化」と言いつつ「みんなと同じ」とか言ってしまってますが、しんどい子にとって「みんなと学べている」感覚って、すごく大事で。コロナの影響で欠席しているような場合も、情報保障という意味で、手軽に使える方法だと思います。

     

    今は他にも無償の教材やYouTubeなど、いろいろな情報がありますが、家庭環境や、その子の意欲・スキルによって、先生が今日話した授業と同じ内容にたどり着くのは、難しい場合も多い。そこにリンクを送ってあげて、気になる子には声をかけてあげてほしい。

     

    これは、塾とかでも使えて、定期テストの直前に「やばい。先生教えて」っていう子いますよね。今は、塾でもメッセージツールを入れていることも多いと思うので、テスト範囲に合わせてeboardの単元のリンクをまとめてあげるだけで、頑張れる子がいると思います。

    個別化、自由進度学習で利用する

    吉永:なんか、もうちょっと「個別最適化!!」的なものを期待してたので、意外です。でも、どんな現場の先生でも、すぐにやってもらえそう。もう少し踏み込んだ使い方も聞きたいです。

     

    中村:そうですね。その子にあった情報を保障するのも、私は十分に個別対応だと思うんですが、わかりやすい「個別化」としては、特に算数・数学などの積み上げ型の教科で「自由進度学習」で進めるのも1つの方法です。

    自由進度学習:授業内での学習の進度を学習者が自ら自由に決められる授業の進め方。学習する単元はそろえて、その中で進度を自由に決める場合(単元内自由進度)や、単元や学年も超えて進度を自由にする場合(いわゆる「自立型学習塾」など)もある。

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    中村今お話しした通り、視覚・聴覚の優位や情報の処理の仕方、コミュニケーションのとり方などで、その子がやりやすい学び方は、本来多様なものです。これまでは、一斉授業(一斉講義)で授業をしていたので、そういう違いがあること自体を、先生も社会全体も気づきづらかったと思うんですが、やり方を変えてみると「こんな学び方するんだ」とか、「これだとうまくいくんだ」みたいな子が出てきます。

     

    一人ひとりが、自分で学び方を選んで、自分でやり方を試す。それはもちろん失敗してもいい。それを積み重ねて、「これが自分の学びだ」というものを獲得していってほしいなと思います。今まで「勉強ができない」と思いこんでいた子が、「これなら学べる」とか「勉強って、こういうことか」と分かった時は、最高です。その子の一生の財産になる。

     

    現実的には、公立学校のカリキュラムで、自由進度をやるなら「単元内自由進度」がやりやすいと思います。年間指導計画の中で、各単元の時数は決められていると思うんですが、その単元の中で学習をどう進めるかは、学ぶ人が自分で決めて進める、というやり方です。AIドリル等で進度の個別化が注目されがちですが、学習方法を個別化していくことが大事だと、私は思います。そっちの方が、ずっと子ども達へのインパクトが大きい。

     

    実際の様子を見ると、従来通りに教科書と計算ドリルをやってる子もいれば、eboardを使ってやってる子もいる。全員eboardを使っている、ドリル教材をやっている、ということではないです。先生のところに来て、これまでと同じように講義を受ける子もいれば、友達と一緒に話しながら進めている子もいる。静かなところでひとりで進めている子もいる。それぞれのやり方を尊重して、自分の学び方、ペースで進めていくというかたち。

     

    ただどうしても、これまでの慣習として、単元ごとに評価をすることは、まだ必要だと思っています。単元末テストは、みんな必ず同じように受ける。そこで学習を評価する、単元内自由進度というのは、ひとつのやり方なんじゃないかと思います。


    その時の先生の役割ですが、「先生から教えてもらう方が学習しやすい」という子も当然いるので、一斉授業をしたり、個別に教えたりという部分は、必要だと思います。ただ、それ以上に大事なのは、子ども達が「自分で学ぶこと」をサポートするということ。子ども達から手を離して、ただ「自由にやってみよう」というだけでは、どう学ぶか自分で選択できない子も多いです。

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    中村:そのためには、まず「評価」です。ここでの評価は grading、つまり「点数をつける」ということではなく、assessment や evaluation という意味。きちんと「看取って」「価値づけ」ができることです。自由進度や個別化で一番大事なのは、子ども達自身の「ふりかえり」、自己評価だと思っているんですが、そもそも学ぶ経験がまだまだ少ない中で、自分の学びをふりかえることって、できないですよね。頑張ってやったのに「できてない」と否定的にとらえてしまったり、逆に自分は「できている」と思っていても、客観的にはそうでない場合もある。

     

    あなたの学習は今こうです」「こういうクセがありますよ」「ここに課題がありますよ」というように、その子自身が見つけ切れない部分を「学びの先輩」として、サポートしてあげることが大切です。ただし、一方的に評価しない。何より、子ども達自身が自分の力で学んでいけるようになること、子ども達自身が自分で学びを評価できるようになることが、ゴールだと思います

    「学んだ力」ではなく「学ぶ力」を

    吉永:自分が先生として教壇に立っている時を思い起こすと、どうしても教えることが役目だと思ってばかりで、なかなか「知識がきちんと定着しているか」以外の目線で、子ども達を見ることができていなかったなあと思います。先程中村さんが言った、「学びの先輩」という立ち位置からは関われていなかった。

    中村:大事にしてほしいのは、そもそもeboardを使う目的です。学習の個別化であれば、個別化する目的です。ICTを使って当たり前とは思いますが、使うことや個別化自体が目的ではないですよね。教材や授業も、目的を決めて設計されると思うんですが、私たちがeboardを通じた学習で身につけてほしいのは、「自ら学んでいく力」なんです。もちろん基礎学力を身につけてほしいとは思いますが、それは「学ぶ力」の土台だと思っています。

     

    かつて、塾の講師をしていた頃も、これは教室長からすると大変迷惑な事かもしれないですが、担当生徒に「塾をやめるのがゴール」という話をしていました。自分ひとりで勉強ができるようになったら、その後、社会に出た後も使える大事な力になります。私たちが目指す「学びをあきらめない」というのは、そういう状態です。「学ぶ力」が身についた状態です。

     

    「人生100年時代」と呼ばれるようになりました。これからは、高校や大学を出た時点での学力、「学んだ力」が高いか低いかより、「学ぶ力」が高いか低いかの方が大事になってくるんじゃないかと思っています。

     

    決められたやり方で、決まった知識を身につけることより、苦労したりすぐ点数が取れなかったとしても、「自ら学んでいく力」を養っていくことが、その子の人生において、幸せに生きていくために一番大事なことだと、私は思っています。必要な時にはeboardを使ってもらって、そんな思いを、少しだけでも、一緒になって子ども達に届けてもらえると、ありがたいです。

    連載「開発者が語るおすすめ活用法」目次

      1. 第1回 eboardが生まれた理由(本記事)

      第2回 おすすめは、ないです!学校現場での活用法について(本記事)

      第3回 一人ひとりの、使い方 …Twitterの声を紹介しながら

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