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  • 「学びをあきらめない社会へ」10年前にかかげた思いの現在地 NPO法人eboard 中村孝一

    1本の映像授業から始まった私たちの取り組みは、10年前の12月5日、NPO法人になりました。「学びをあきらめない社会を実現する」という、背負いきれないような大きなミッションを背負って。10年にわたる活動の中で、その思いは、どれだけ実現できたのでしょうか?2023年12月、eboardの活動を支えてくださった10人の方とのインタビューを通じて、この10年をふりかえりました。

    今思うと、まさに身一つパソコン1台で始まったチャレンジ。そこから得られる収入はなく、私は貯金も食いつぶし、その胸には熱意以上に不安が、大きくのしかかっていました。思いだけが先行し、団体としても個人としても、道は開けていませんでした。

    そんな自分で立つことすらもおぼつかなかった、この団体を支えてくれたのは、eboardを利用してくれる子どもたち、そして先生の声でした。10年の活動の中で、私たちほど日本全国のさまざまな教育現場、子どもたちが育つ場所に関わってきた組織はないと、誇りを持って言うことができます。

    その始まりとなったのが、島根県吉賀町。それまではネット上に限られていた私たちの活動は、「過疎」という言葉が生まれた地域の、小さな学校の1室で、リアリティを持った取り組みになりました。生徒によってばらつきはあれど、人的に限られたサポートの中で、それぞれが自分のペースに応じて学んでいくことができる。「自分のやってきたことは間違ってなかったのかもしれない。これは本当に価値があるんじゃないか。」そう思えた瞬間でした。



    その後、eboardをご利用いただく現場は、全国の学校や地域、様々な取り組みへと、少しずつ広がっていきました。貧困家庭の学習支援、不登校支援、特別支援。その中でも様々な背景を抱えた子が集う定時制高校での取り組みは、私たちの「学び」や「学力」に対する捉え方を変えてくれました。

    学力や意欲以前に、まともに「学ぶ」という経験がなかった子もいる中で、自らが掲げた「学びをあきらない」という言葉は、消して点数や偏差値で測るものではなく、自らの力で学んでいくことなんだと、痛感しました。

    コロナ禍を経て、全国の学校には1人1台の環境が整備されました。10年前には、「動画なんかで、まともに学べるわけがない」「誰もがパソコンで学ぶ時代なんて、来るはずない」と言われていた、まさにその景色が全国の学校に広がりました。

    事業としても赤字続き、自分たちが作っているものの価値を、子どもたちの声だけを頼りに続けてきた活動。それが、新型コロナにより日本全国の学校がストップした際には、「学びのセーフティネット」として機能し、100万人の子どもたちに学びを届けることができました。

    しかし、そんな中、障害や言語、様々な障壁から学びにアクセスできない子どもたちの存在を、私たちは、改めて認識することになりました。2,000本の映像授業に、人の手で編集された「やさしい字幕」をつける。スタートした時には先が見えず、途方もなく思えたこの取り組みは、コロナ禍、1,000人以上の方の力をお借りして、実現することができました。義務だと言われる教育課程において、この国で唯一、字幕による機会保障を実現することができました。



    これに続く私たちの機会保障の取り組みは、私たちにこれまでになかった、子どもたちの声を届けてくれるようになりました。ろう学校や日本語教室など、eboardが学びを届けられる現場はさらに広がりを見せることになりました。そんな現場からの声は、それまでの私たちが必死で取り組んできた「学び」がそもそも伝わらない、届かないもので、いかに画一的で、貧しいものであったかを教えてくれました。

    これから私たちが目指さなければならないのは、「機会を保障する」という考え方ではなく、障害の有無や言語、その子が置かれた環境に関わらず、多様な子どもたちが、多様なあり方のまま、多様な方法で学んでいける、そんな社会を実現していくことだと、私たちの目指す「学びをあきらめない社会」はその先にあるものなんだと、教えてくれました。

    こうして10年間を振り返ると、私たちeboardは、子どもたちの、先生の、そして活動を支えていただく方々の声によって支えられ、磨かれ、生き抜いてこれたんだと思います。何もなかったところからスタートしたこの小さな取り組みを、信じていただき、思いを託していただき、本当にありがとうございました。

    NPO法人eboardが3周年を迎えた時、活動を支えてくださっていた皆さんにお集まりいただき、スピーチをしました。その声は、今では何十倍、何百倍の人に届けられるようになりましたが、その思いは、変わりません。スピーチの最後の部分を、引用させてください。

    ”私たちは、ICTの力を使って、次の時代の「学びのセーフティネット」を作ります。それは病気への特効薬では、ないかもしれません。流れる血を止められるものではないかもしれない。ただ、今日集って頂いた先生方や地域、NPOの方、1人1人が「治療」に当たるとき、病気に立ち向かおうというとき、流れる血を止めようというとき、そのための「道具」になるものです。しかし願わくは、単なる道具を超えて、陰ながら子ども達の学びを支える、思いを持った人をつなぐ「よりどころ」でありたいと思います。”

    私は、eboardは、この10年の間に、このスピーチのどれほどを、実現できたでしょうか。この10年の間、仕事の中で、自分が何か大きなことを達成できたという感覚は、残念ながら一度もありません。もちろん何かを達成できた時、活動が評価された時、そして何より子どもたちからの声が届いた時、もちろんそこに喜びはありますが、常にそのすぐ先には、私たちが取り組むべき課題が厳然と、重くのしかかっています。



    一方、最近ではこんなメッセージが、eboardの元に届くようになりました。

    ”小学2年生の娘が学校にいけなくなり、自宅での勉強をどうするか模索していました。そんな時見つけたこちらの動画は、娘が「おもしろい!」「さんすうやっぱりすきかも!」と、こんなにも楽しそうに勉強にむかう娘を初めてみました。改めて、活動を拝見し、「学びをあきらめない社会へ」という言葉に涙が出ました。”

    ”ADHDと学習障害による学習の遅れで、学校生活が困難でした。そんな私達にとって『eboard』は希望であり先生です。”

    ”いつも使わせて頂いています。eボードさんが、あきらめず今を築いてくださったので、娘も「分からない」であきらめずこれからの自分を築けるのではないかと思うことができます。”

    こんな声は、eboardを毎月ご利用いただく数十万人の中でも、ごくわずかかもしれません。けれどそれは、その子にとっては、私たちの目指した「よりどころ」と言えるものになっているのかもしれません。それは、点数や偏差値では、測ることができないかもしれない。インパクトとは、言えないかもしれない。けど、そんなものでは、測れない、測らせたくない。私たちが本当に届けたいと思う価値が、そこにはあります。そんな「希望」を「よりどころ」を増やしていくことができれば、私たちの目の前にある、この大きな課題を崩していくことができるのではないでしょうか。

    この先の10年、どんな未来が、どんな社会が、私たちを、子どもたちを待っているんでしょう。AIが発達し、多くの知識、そして仕事も、コンピューターにとって変わっていく中、これまでのような意味合いでの、「学ぶ」ことの意義は、価値は、薄らいでいくのかもしれません。それでもなお、人間に学び続ける価値、学び続ける意味がある、それを見出そうとする中で、「学びをあきらめない」という言葉は、私たち全員が向き合うべきテーマとなっていくのかもしれません。

    3年目のスピーチでは、最後に、私から一つのお願いをさせていただきました。大変恐縮ながら、そのお願いをもう一度、このメッセージを、この声を聞いていただく皆さんにお願いさせてください。

    ”今日お越しいただいた皆さん、またこの話を聞いて頂いた皆さん、1人1人にお願いがあります。どうか、私たちのミッション、現場の方とつくりあげ、子ども達に支えられてきたこのミッションを、一緒に支えて頂けないでしょうか。「学びをあきらめない」という思いを、私たちと一緒に、少しずつ背負って頂けないでしょうか。”

    eboardは、これからも子どもたちの声を頼りに、変化を続けながら、歩み続けます。たとえ、どんな環境にあっても、子どもたちが「学んでみよう」と思ったとき、子どもたちの学びを「支えたい」と思ったとき、「いつでも、どこでも」それが実現できる。それが、私たちの目指す「学びをあきらめない社会」です。

    2023年12月5日
    NPO法人eboard 代表理事 中村孝一

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