教育現場で利用する
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NPO法人eboardは、2024年度から、活動を応援いただく企業・団体の皆様から毎年一定金額のご協賛をいただく「企業スポンサープログラム」をスタート。6月には、第1号スポンサーとして、全国13,000校以上で毎日約260万人の児童・生徒が利用する「ロイロノート・スクール」(以下「ロイロノート」)を開発・提供する株式会社LoiLoにご参加いただきました。
両社が共通して大切にしているのが、子ども達が「自らの力で、主体的に学んでいく」こと。そこで今回は、ロイロノートとeboardを活用しながら、子ども達の自律した学びを実現されている、新渡戸文化中学校(東京都中野区)の奥津先生にインタビューさせていただきました。
目次
新渡戸文化中学校
奥津 憲人さん
NPO法人eboard 代表理事
中村 孝一
中村:新渡戸文化中学校がロイロノートを導入された時期は、コロナのタイミングだったと思うんですが、改めて背景や目的についてお聞かせいただいていいですか?
奥津:はい。僕がこの学校に来たのが2020年のタイミングで、ちょうどコロナの流行が始まった時期。そこで、全学年に1人1台の端末を入れる計画があり、オンライン授業の可能性も見越して、全校でロイロノートを導入することにしました。実は、ロイロノートは元々前の学校でも使っていたんです。授業支援系のツールは他にもいくつかあるんですが、ロイロノートは特に使いやすくて、通常の授業の中に取り入れやすい。ICTに詳しくない先生でも、普段の授業内で自然に使えるのがロイロノートのいいところですね。
中村:実際に利用される中で、具体的にロイロノートのどの部分が使いやすいと感じますか?
奥津:一つは、先生が説明する内容をそのまま生徒に共有できる点です。生徒が提出したものを受け取って、それを元に説明することもできます。一般的な日本の授業のそうしたよくある場面で、操作が簡単にできるのがロイロノートの魅力じゃないでしょうか。また、他のサービスと比べてログイン等の手間が少ない。カード形式で写真や動画、PDFなどを扱えるので、導入のハードルも低いですね。iPadみたいに感覚的に使えるというのが一番のポイントでした。
中村:なるほど。確かに、感覚的な操作ができるのは、ICTに不慣れな先生にとっては非常に助かりますね。同じ時期にeboardも導入いただいたと思うのですが、こちらは、どういった経緯だったんでしょうか?
奥津:eboardは前の学校の頃から存在を知っていて、不登校の生徒にも案内していたんです。ロイロノート同様、コロナの流行が始まった時期に、1人1台端末とオンライン授業の可能性を見越して導入しました。
中村:ロイロノートはどの先生でもすぐに使える「使いやすさ」がポイントだと思うのですが、eboardはどんなところを評価してもらえたんでしょうか?
奥津:内容が難しすぎず、動画と問題がセットになっている点がいいですね。義務教育課程の最低限の内容を抑えるのには、ちょうどいい。自分の授業内容を動画や問題にする時間がない場合でも、eboardはそれらがセットになっているので、とても便利です。それが1つの教材の中でうまく提示されていて、生徒が自分のペースで学習できるように設計されています。動画を見て問題を解くという流れが非常にシンプルで、生徒が自分で学習を進めやすいんです。
中村:ありがとうございます。両ツールを導入されたのはコロナ禍だと思いますが、学校が再開していくと、ICTの活用も定着し、使い方も変わってきたのではないかと思います。ICTの活用を考える上でも、新渡戸(文化中学校)で掲げられている「自律型学習」というのが、とても大切なキーワードになっているように思うのですが、具体的にはどんなイメージでしょうか。
奥津:そうですね。生徒たちには、自分で自分の学びをコントロールできるようになってほしいと思っています。自分に必要な学びをつかんでいくとか、ここが弱いなと思ったらそれを強化できるようになったり、逆にもっと伸ばしたいと思ったら先にどんどん進むとか、そういういわゆる「個別最適化」した学びを実現したいと思っています。
中村:「個別最適化」というと、個々の理解度や進度に応じた学びのイメージが先行しがちですが、授業を見学させてもらう中では、その子が「何がしたいか」というところも、すごく大切にされているなと感じました。そうした学びの実現を目指す中で、ロイロノートやeboardのようなICTツールの役割って、どんなところにあるんでしょう?
奥津:そうですね。eboardはまさに自律型学習のためのツールで、eboardがあるおかげで、生徒自身が「この学びが必要だな」と思った時に使える状況を生み出せています。明確に僕から「これをやりなさい」という感じでは示していなくて、授業の中でも外でも、あくまで「やるといいよ」という感じでおすすめしながら、評価の際に通常の授業の成績+αで加点するような仕掛けをしています。
一方で、ロイロノートのよさは、やはり共有です。僕→生徒、生徒→僕への情報のやりとりだけでなく、生徒同士の横の情報共有も簡単にできます。ロイロノートで実現できる双方向授業があるからこそ、生徒はどんどん自分の必要な情報、必要な学びをつかみ取ることができているのだと思います。
中村:先ほど見学させていただいた理科の授業では、授業内での個別最適化学習の実現方法として、学び方や進度に応じた「コース」を選択できるようにされてましたよね。改めて、その進め方やねらいについて、教えてもらっていいでしょうか。
奥津:
僕の授業では、生徒に3つのコースから1つを選んで学習を進めてもらいます。1つ目は「じっくり行こうぜ」コース。これはいわゆる普通の授業っぽく、僕が話して、生徒が作業・実験してまとめるような形のコースです 。
2つ目は「のんびり行こうぜ」コース。これは僕の話を聞くんじゃなくって「今日はこの内容を理解すればいいよ」という内容をまとめたプリントをクリアすればOK、というコース。 自分のペースで進めるので、例えば教科書や問題集を見ながらでもいいし、当然eboardを見ながらでもいいし、インターネットで調べてもいいんですよ。
最後3つ目が「我が道を行く」コース。これは理科が得意で、もう大体内容はわかっているからどんどん先に進めたい、という生徒のために設定しています。自分でどんどん進めてもらっていいんだけど、テストやその日の学びをふりかえる時間には、その日の授業で扱ったことはちゃんと答えられるようにはしておいてね、という形です。3つのコースを設けることによって、最低限の内容をちゃんと抑えつつ、学び方が選べるようにしています。
中村:いやぁ、これは教科や学年を問わず取り入れられそうなアプローチですよね。一方で、どうしても「個別最適化」のような言葉が一人歩きしてしまっているというか、どうしても形から入ってしまうようなところもあるように思います。自律型学習や個別最適化学習を、授業や子どもたち自身にも浸透させるために大事なことって、何だと思われますか?
奥津:やっぱり「選択」がすごく大事だと思ってます。自律には選択が必要だと僕は思っていて、選ぶっていう経験を良くも悪くもちゃんと本人のコントロールで行うということ。 選べるかどうか、つまり選ぶだけの環境をちゃんとこちらが整備できてるかどうかが大事なんだろうなと。選択肢を提示されずに「やらされている」「やらなきゃいけない」という経験を積んでしまうと、(選択肢がある場合でも)自分で選択しなくなっていってしまうので、選択する価値や必要性がどんどん失われていくと思うんですよね。そういうこともあって、僕の授業では生徒がコースを選択できるようにしているんです。
生徒たちが選んだコースで、どんなツールを使うか、そこに対して生徒自身が責任を持てるかというところが、本当に自分のコントロール=自律になっていくって考えると、 やっぱり与えられる選択肢が多ければ多いほど、それぞれの個に応じることができると思います。この子にはこのツールが合っているけど、この子には合わないよね、じゃあこの子にはあのツールがあるよねっていうように、様々なツールを用意することで、初めて個別最適化学習が実現する。問題集だったり、教科書だったり、eboardだったり、インターネットだったり、いろんなものがあるっていう状況が最終的には、個の自律につながっていくだろうと思っています。
中村:なるほど。とはいえ、生徒自身が自己決定するのって、結構スキルが必要になることだと思うんです。その自己決定の精度を上げていって、これだとうまくいかなかったなぁとふりかえりながら、継続的に学びのサイクルをまわしていかないといけない。例えば、勉強が苦手な子や嫌いな子って、自分で「できた」と思えない、自分自身が認められないといったこともあるんじゃないかなと。そういった子には、どんなフィードバックをされているんでしょうか?
奥津:一言で言うと「ナイス文化」です。やったら全部ナイスだよねっていう、全肯定のマインドで接しています。失敗してもナイスだし、チャレンジしたらナイスじゃんって。「これはダメ」なんて言わずに、「これ最高だね、よく頑張ったじゃん」って。 そのうえで、「でも、ここをさらにこうするといいかもしれないね」っていうことは言います。ただどんな時も、まずは肯定から入ることが大事だなと思うんです。
中村:いやぁ素晴らしい。本当にその通りですね。ここはぜひ記事にして多くの先生に伝えたい。 自分自身も含めて、どうしても子どもに「ノー」から入ってしまうことがありますが、「まずはナイス」というのは、欠かせない姿勢ですね。
中村:先ほど、ロイロノートで双方向性の高い授業ができるからこそ、生徒が自律的に必要な学びをつかんでいくことができる、と話されていたと思います。ここって、多くの先生が悩まれている個別と協働の学びの話かと思ったのですが、もう少し詳しく教えてもらっていいでしょうか。
奥津:そうですね。まずこれまでの一斉授業であれば、基本的に情報は先生が一方的に伝えるしかなかったんですよね。eboardのようなツールも、個の学びの観点からとても大切ですが、「共有」によって身につけられることも多いんです。共有という要素はやっぱりICTならではの利点で、圧倒的にこれまでと違う部分。これまでは先生→生徒の一方向だったのが、先生←生徒はもちろん、生徒同士での共有も可能になります。共有にかかる時間も短くなるので、時短的な意味と、方向性の広がりという2つの意味で、共有による利点が生まれていると思います。共有によって授業や学習に生まれた変化が、とても大きいと感じています。
中村:なるほど。今までは先生だけから矢印が出てたものが、生徒から先生にも矢印が返ってきて、さらに生徒同士でもたくさんの矢印が向き合う感じでしょうか?
奥津:そうですね、なんならもう先生からの矢印は少なくなっているかもしれません。先生が生徒個人に矢印を送らなくても、なんとなく全体にふわっと矢印が進んでいるような感じになってくると、自律型の学びが生まれるチャンスがあると思いますね。
中村:授業全体の方向性や、そこで達成する目標が提示されている感じでしょうか。そこに向けて、これまでのような一斉指導の時間を多く取らなくても、個別や協働の中で自律的に学んでいける。奥津先生の授業も、まさにそんな印象を受けました。それってやっぱりICTがあったからこそ、変化したものなんでしょうか?
奥津:そうですね。ICT、ロイロノートがあることで僕が楽になったことは間違いないですね(笑)。授業のスタイルも、以前はゼロから毎回板書していたんですが、ロイロノートで共有した自作のプリントに書き込めばいいというスタイルにして。さらにロイロノートによって生徒の反応や回答を集めやすくもなりました。
ただ、あくまでツールですから、どっちかというと、ツールを使うことによる変化というよりは、自分自身が変化した時に、その変化に応じてツールを使わせてもらっているという方が正確ですね。例えば、より自分で学ぶとか、より自分で動けるようにという上位のマインドがあった時に、そのために何が必要かなって考えた時に、ロイロノートがあるといいね、eboardがあるといいねっていう感じかなと思います。
中村:目指す姿や価値観に合わせて、ツールや使い方を選択していく。形から入ってしまうことも多い中で、改めて大切にしたいなと思いました。そこでもう1つ気になっていた言葉があって。新渡戸(文化中学校)では、「自律型学習者」とともに最上位目標(育てたい生徒像)として「Happiness Creator(しあわせ創造者)」を掲げていますが、こちらについても、ぜひお話を聞かせてください。
奥津:これは、新渡戸文化中学校の初代校長である新渡戸稲造先生の言葉「自分が生まれてきたときより死に至るまで、周囲の人が少しなりともよくなれば、それで生まれた甲斐があるというものだ」をベースにしながら、しあわせを創る人=自分も他者もしあわせにできる人を目指しましょう、という目標なんです。
Happiness Creator になるために、中学・高校時代にどんな力を付けるべきかと考えると、自律、つまり自分をコントロールする力は欠かせません。そこから先ほどの「自律型学習者の育成」が教育方針になっています。
もう1つ、自分も他者もしあわせにできる人を目指す上で大切にしているのが、「それぞれの120パーセント」を目指すという考え方。自分のしあわせ、そして他者のしあわせを最上位に考えていくと、いわゆる教科書的な学びは全員が目指す共通の達成ラインではありません。それぞれ全員違っていて、全員しあわせの定義もラインも全部違っていて、何をもってしあわせと思うのか、どんなスキルをもってしあわせになれるのかというのは、全部一人ひとり違う。なので、目指すべきは、同じテストで100点を取ることではなく、それぞれが「それぞれの120%」を実現できることだよねと、そういう考え方です。
中村:そういう考え方がベースにあるからこそ、新渡戸(文化中学校)では、教科の枠を超えた「探究的な学び」や「問題発見型の学び」の時間も大切にされているんですね。今日の授業では見学できなかったのですが、具体的には、どんなことをされてるんでしょうか?
奥津:毎週水曜日は丸一日、探究的な学び(クロスカリキュラム)の時間なんです。この日は何をしてもいいっていうか、自分たちでテーマを決めて、どこに行くのも自由なんです。美術館見学、裁判所見学、SDGsを推進する企業への取材などなど、子ども達が決めて実行します。
中村:毎週?まじですか。めちゃくちゃいいですね、それは。
奥津:中学のクロスカリキュラムは、大きく前期と後期に分かれていて、前期は、自分の「好きなもの」と掛け合わせて、「文化祭に来た人をどうハッピーにさせるか」がテーマ、後期も同じく、自分の「好きなもの」と掛け合わせるんですが、「どんな社会の『困った』を解決できるかか」がテーマになっています。似てるんですけど、ちょっとだけエネルギーの向け方が違うんですね。単に自分の好きなことだけではなくて、それと社会、誰かをどんなふうにからめていくかっていうのは、常に考えてもらうようにしています。
中村:なんか「探究」ってなると、自分の「好き」を突きつめるみたいな要素ばかりに目が行ってしまって、それが否定的にとらえられることもあると思うんですけど、そこに他者がいるだけで全然違いますよね。
奥津:違いますね。「好き」を極めると、絶対どこかで他者が出てくるんですよ。社会との接点に対して、リスペクトや感謝を持つことは大事だと思っていて。 例えば、本当に昆虫が好きで昆虫のことだけ調べたい子が、いざ調べ始めたら専門家に出会いますよね。その専門家に対してきちんとリスペクト、関心を持ってほしいし。そしたら、もうその人とのハピネスが、もしかしたらどこかに生まれてるかもしれない。どこかで必ず社会との接点があるはずなんです。 社会との接点で、その社会に対して誰かをハッピーにするっていう視点が生まれてくる。そういう設計で進めています。
中村:いやぁ素晴らしい。うちの子小1だけど、真面目に行かせたくなってきました(笑)
たくさん興味深い話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。最後に、全国の先生方、特にICTツールについてはなかなか使いこなせていないなぁと思っていらっしゃる先生も多いと思うので、メッセージをお願いします。
奥津:いや、無理にICTツールを入れようとか思わなくてもいいんじゃないでしょうか(笑)。無理しなくていいんですよ。ただ、なんか使ってみると面白いから良かったら一緒にやりませんか?ワクワクしますよ、可能性広がりますよ、とは伝えたいですね。そんな程度かな。今、メッセージって言われたら。
中村:ありがとうございました。これからも奥津先生の取り組みに注目していきます。
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