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  • 不登校支援の「現在地」とこれから〜先進自治体調査から探る、制度拡充と民間活用の実践的アプローチ〜/イベントレポート

    2026年3月17日、NPO法人eboardは、全国14の先進自治体への独自調査をもとに、不登校支援のあり方を考えるオンラインイベント「不登校支援の『現在地』とこれから」を開催。当日は、全国から自治体担当者・地方議会議員・大学関係者・メディア・出版社や教育企業など、様々な立場の約80名が参加しました。この記事では、当日の発表のエッセンスをお伝えします。

    不登校支援施策に関する調査報告書解説

    イベントは、eboardの代表理事・中村孝一からの14の先進自治体へのヒアリング・アンケートに基づく調査報告の解説から始まりました。

    中村は今回の調査を行うに至った背景として、日本の不登校の子ども達が置かれている極めて深刻な現状をデータで共有しました。

    不登校の児童・生徒数は、この10年間で小学校では5.3倍、中学校では1.4倍となり、全国で35万人に達しています。中村は「この数字は、四国4県の全小中高生に相当します。深刻なのは、そのうち 約3人に1人が学校内外の専門的な支援を受けられずにいることです」と危機感を共有しました。

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    中村の語る危機感は、eboardの利用実態にも表れています。NPO法人eboardが10年以上にわたり提供しているICT教材は、1人1台端末の普及も追い風となり、現在では毎月20万人以上に利用されています。近年の不登校の急増に伴い、家庭からだけでなく、自治体の教育支援センターや民間のフリースクールといった「不登校関連施設」からのアクセスも急増しているのです。

    現場の切迫した状況が見える一方で、各自治体が打ち出す不登校支援施策の進み具合や成果には、地域によって差が生じています。そこでeboardは、自治体や連携する民間団体が円滑なサポート体制を築くためのロードマップを提示したいと考え、先進的な取り組みを行う全国14の自治体に対して独自のヒアリング・アンケート調査を実施しました。 

    今回の調査にあたっては、国内外の先行研究をもとに、自治体による民間への「公費助成」の度合いと「質的保障への関与」の2軸で整理した「不登校支援モデルの4類型」を仮説として立て、分析を行いました。

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    ①「基本支援型」-学校を中心とした施策

    文部科学省の方針に則り、教育支援センターの増設や機能強化、スクールカウンセラー等の学校配置強化を中心とするモデルです。多くの自治体が取り組みを進めていますが、学校外の民間支援に対する助成や質的保障への関与の度合いはいずれも低い状態です。

    ②「民間支援育成型」-フリースクール等の利用促進

    フリースクールや居場所を運営する民間団体への運営補助金や、家庭への利用料補助など、財政支援を通じて民間の場を育てるモデルです。

    ③「公的支援担保型」-公的支援を拡充

    次に、国の方針に沿って積極的に施策を進めつつ、自治体独自の予算で「学びの多様化学校」の設置や、メタバース等を活用した居場所づくりを拡充する取り組み等を進めるモデルです。

    ④「包括支援型」-官民両方の取り組みが発展・連携

    公的支援と民間育成の取り組みが両輪で発展し、政策立案の段階から官民が協力し、包括的な支援体制が築かれたモデルです。

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    調査の結果、見えてきたのは「基本支援型」を起点に、行政主体を強化する方向に向かう「制度拡充経路(行政主体の拡充)」、または民間の学びの場を育成・拡充する「民間育成経路(民間の場の育成)」のいずれか、または行ったり来たりの経路を辿りながら、段階的に深化させているという実態です。一足飛びで「包括支援型」に至るというケースはなく、各自治体の状況に合わせた取り組みが続いています。


    現場の課題とeboardからの提言

    「制度拡充経路」の課題:拡大の困難さと質の担保

    国の方針に即した動きにあるため障壁は比較的少ないものの、不登校の子どもの増大スピードに合わせた拠点拡大やスタッフ拡充には困難さが見られました。自治体によっては、教育関連のひとつの部署の予算だけでなく、他の部局の財源もあわせて柔軟に予算組をしているところもあります。

    「民間育成経路」の課題:コミュニケーションと調整機能

    フリースクールや居場所を運営している民間団体と一歩踏み込んだ関係を構築していく際の大きな課題は、民間団体との密なコミュニケーションの維持や調整です。自治体職員は数年で異動するという制約がありますが、フリースクール等民間団体の活動内容や理念は多岐にわたります。だからこそ、子どもたちや保護者といった当事者をも巻き込んで、時間をかけて丁寧に意思疎通を図っていくことが不可欠です。

    こういった課題を踏まえ、NPO法人eboardからの提言は以下の通りです。

    ①フリースクール等民間団体との早期関係構築

    現在の不登校の増加を考慮すると、フリースクール等民間団体の存在なくして、不登校の子の居場所や学びの確保は実現できない。
    「民間育成経路」の土台となるフリースクール等団体との関係構築には、時間を要するため「制度拡充経路」を強化していく場合でも、並行してできるだけ早期に民間団体との関係づくりを進めていくことが望ましい。

    ②地理的条件や人口動態に応じた細部にわたる制度設計

    フリースクールへの運営費補助やメタバースによる不登校支援等の新しい取り組みでは、同じ施策であっても予算措置やその運用体制において自治体間に違いが見られ、それが成果の違いにもつながっていた。施策そのものだけでなく、各自治体が置かれた地理的条件や人口動態、民間団体との関係性等の要素に基づき、近しい条件に置かれた好事例の細部から学び、制度設計することが求められる。

    ③学校内の体制整備との両輪

    官民問わず、学校外での取り組みが着目されがちだが、本来的には学校や教室がすべての子どもが安心して過ごし、学べる環境であることが望ましい。学校外での居場所や学習機会の確保は欠かせないが、安易に「学校に来られないのであれば、学校外で支援すればいい」という考えに偏ってしまっては、学校をさらに「学校に合う子の場所」にしてしまいかねない。学校外との円滑で充実した連携のためにも、「基本支援型」に位置づけられる取り組みは欠かせないものである。

    中村は、不登校支援のあり方について、次のように強い想いを語りました。

    「不登校の子どもたちの支援の本丸は、学校や教室がすべての子どもが安心して過ごし、学べる場所であるということだと思っています。安易に『学校に来られないのであれば、学校外で支援すればいい』という考えに偏ってしまっては、学校をさらに特定の型に合う子だけの場所にしてしまいかねません。学校側との円滑な連携があってこそ、学校外での支援も生きてきます。どちらか一方に偏るのではなく、両輪で進めていく視点が不可欠だと考えています」

    \イベント当日にお話しした調査報告資料をご利用いただけます

    調査報告書ダウンロード

    事例共有:長野県の「信州型フリースクール認証制度」

    続いて、長野県県民文化部こども若者局次世代サポート課玉井慎市郎さんより、2024年度から始まった「信州型フリースクール認証制度」の事例を共有いただきました。

    人口約200万人の長野県には、7,248人の不登校児童・生徒がいます。この数は、5年前と比較すると2倍。フリースクールの数もそれに伴い、2倍以上の110カ所となり、利用生徒数は3倍以上の554人となっています。不登校発生率が全国で3番目に高かった長野県では、知事の意向もあり「学校外の学びの場を公的に支える」ための認証制度を創設しました。

    これは、フリースクールを「居場所支援型」「学び支援型」の2種類にわけ、それぞれ13項目の認証基準を設けて、週の開所日数などに応じ、最大200万円を上限として補助金(人件費・家賃等)を交付するほか、研修や広報、支援者同士のネットワーク化、支援機関連携推進担当の設置といった運営体制の支援を行うというものです。

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    特筆すべきは、支援の「質」を高めるための民間との連携です。長野県では、認証施設に対し、eboardが提供するオンライン研修(全17講座、50本ほど)の受講を一部義務化。さらに対面研修や自主研修も実施しています。これにより、民間の多様性を守りつつ、行政が求める専門性や、子どもへの暴力防止、救急救命といった安全性の担保を実現しています 。

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    このような認証という行政の「お墨付き」が信用となり、保護者の安心や子どもの自信につながっていること、認証した施設は43カ所(2025年11月現在)にのぼっていることなどを成果として紹介いただきました。

    さまざまな課題もあるなかで、丁寧に民間支援団体とコミュニケーションを行い、施策に反映させてきたという長野県。さらに2025年度からは、人件費の補助率を2分の1から4分の3へ引き上げるなど、民間の運営基盤をより強固にするための予算措置も講じているそうです。

    現状に満足することなく、子どもたちのためにさらなる官民連携の可能性を切り拓き、多様な学びの場を充実させていくーー。そんな長野県のこれからの挑戦に向けた強い想いを、玉井さんは次のように語りました。

    「様々な子どもたちがいますので、それぞれに対応できるよう、多様な学びの選択肢の充実を図る必要があります。民間連携がそれに確実につながるのではないかと考えています。官民連携して交流イベントを行うのも、双方の理解、広く県民の方々の理解にもつながると思います。また、在籍校での出席扱いも、官民連携がなければなかなか進まないものではないかと感じています。」

    事例共有:鹿児島市「メタバースを活用した不登校支援の取り組み」

    続いては、鹿児島市教育委員会児童生徒支援課の内輝久さんから、不登校支援の取り組みの一環として仮想空間メタバースを活用した支援について共有いただきました。

    2024年度の鹿児島市の不登校児童・生徒は、小学校で725人、中学校で1,295人と増加傾向にあります。

    鹿児島市の不登校児童・生徒への支援体制には様々なものがありますが、校内の支援として①「フレンドルーム支援」、市内5カ所にある教育支援センターでの支援として②「フレンドシップ支援」、そして①②およびフリースクールに通わず自宅で過ごしている児童・生徒のための多様な学びの場として用意されたのが③「フレンドステップ・メタバース支援」です。

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    月曜日から金曜日までの週5日、8時から16時30分まで開講されているメタバース空間では、子どもたちが自ら選んで学べるよう、ICT教材eboardやAIドリル、理科の実験動画、プログラミング教材などが設置されています。また、学習支援員がメタバース内に常駐し、チャットや音声で随時サポートを行う体制を整えています。2025年2月時点での登録者数は、計115名(小学生32名、中学生83名)、一日当たり32.7名が利用し、一人の一日あたりの学習時間は2時間でした。2025年度からは相談員を増員し、最大200名まで受け入れられるよう拡充しているとのこと。

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    メタバース内での「学習ログ」は学校へ報告し、出席扱いとする運用にしています。子どもからは「勉強に対する不安が減ってきた」という声、保護者からは「面白い取り組み」「少しでも同じ不登校の子とつながる手段を持てたことは非常にありがたく、これからも本人のペースで利用させたい」等、おおむね好評とのことですが、メタバースの支援は、子どもを仮想空間内だけに留めるために行われているわけではありません。

    実際にメタバースを利用した中学生の中には、「新年度になってから、フレンドルーム(校内支援センター)に登校できるようになった」「修学旅行に参加できるようになり、そこから8割程度登校できるようになった」といった子もいたそうです。

    子どもたちがリアルな社会へと一歩を踏み出すための「架け橋」としたいーー。次年度のさらなる施策拡充や挑戦に向けた意気込みを、内さんは次のように語りました。

    「リアルの体験交流事業や社会見学などの他者との交流につなげることも重要だと思っています。鹿児島市が実施するフレンドシップ体験交流事業では、宿泊体験活動や高校・施設見学を実施しました。本年度もメタバースから、数は少ないですが参加がありました。次年度は、こういった次のステップへとつながるような手立てや、継続利用してもらうための施策、また周知にも力を入れていきたいと考えています。」

    鍵は、自治体担当者による「ていねいな対話」

    報告会の締めくくりとして、eboard代表の中村は参加者にこう訴えました。

    「子どもたちが『生まれてきてよかった』って感じるためには、本当に信頼できる大人が身近にいることが大切ですし、それで十分でもあります。ただ、今回ご紹介された事例のように、子どもを支える取り組みを地域や自治体といった社会全体でサポートしていくには、我々が同じ目的・同じ目標に向かって手を取り合っていかないといけないとも感じます。行政と民間の連携は以前は難しいこともありましたが、だんだん連携事例も増えています。

    eboardは、特定の現場での活動はないものの、フリースクールや行政の現場で支援にかかわる皆さんと想いは一つだと考えています。粘り強くアクションを取るために、何かしらの形でお役に立てれば幸いです」

    参加者の声から見える「不登校支援のこれから」

    イベント終了後に実施されたアンケートでは、参加者から高い満足度(平均4.6)と、具体的なアクションへの決意が寄せられました。

    「自治体の立ち位置が基本支援型で止まっていることに気づいた。次は長野県のような認証制度の検討から始めたい」「メタバースを『こもらせる場』ではなく『つなげる場』と捉え直すことができた」「長野県の詳細な補助メニュー(安心安全対策費の別枠化など)が非常に具体的で、今後の提案の参考にしたい」といった実務に即した感謝の声も多く見られました。

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    私たちNPO法人eboardは、ICT教材eboardの開発・運営だけでなく、「学びをあきらめない社会」をめざして自治体と協働しての学習機会の提供や、不登校支援人材への研修事業、そして調査・提言や自治体や団体などへのコンサルティングも行っています。

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