教育現場で利用する
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NPO法人eboardは、2023年6月、不登校・子ども支援団体研修プログラム eDojo[イー道場]の提供を正式に開始しました。主に小中学生向けにICT教材の開発・運営を行ってきたeboardが、なぜ "大人向け" の研修プログラムを始めることになったのか、目指すことは何なのか。自身も小学5年生から高校1年生まで不登校を経験した理事・村山(プログラム学術面のサポートを担当)と、代表理事・中村による対談でお届けします。
NPO法人eboard 理事 / 帝京平成大学 講師
村山 大樹
NPO法人eboard 代表理事
中村 孝一
中村:2022年10月の文部科学省の調査で、小中学生の不登校の子の数は24万人を超えました。これにはやはりコロナの影響もあるのかなと思ったのですが、村山さんから見て、急増の原因はどこにあると思いますか?
村山:この調査では、コロナを原因にした長期欠席は別の項目として集計されているので、過去30年間で最大の増加という結果ついて「コロナだから増えた」という見方は、少し違うのかなと考えています。もちろんコロナによって生活が変わったとか、間接的な要因として影響を受けているとは思いますが...。私としては、やはり「学校」という枠組みの中に、自分の居場所を見出せない、居づらさを感じる子が増えていることが示されているのでは、と思います。
中村:24万人以上も不登校の子がいる。でも身近にそういう子がいないと、不登校の子は毎日どうしてるんだろう?と思う人も多いのではないでしょうか。村山さん自身も不登校経験者で、今は不登校の子をサポートしていますよね。相談や支援を受けている子と接する機会があると思うんですが、どういう過ごし方をしている子が多いんでしょうか?
村山:私が出会う子たちは、基本的にはそれぞれの施設(フリースクールや教育支援センターなど)で、定められている活動に参加していることが多いです。ゲームやプログラミング、勉強など、子ども達がやりたいことができる場所もあれば、個別学習などの目標が決まっている場所もあります。
中村:なるほど。一方で、調査では、全体の36.3%の子が「相談・指導等を受けていない」ことも明らかになりました。不登校になったことを自分や家族が受け入れられず、相談を受けるまでに時間がかかる場合も多いと思うんです。そういう子は家でどう過ごしているのか、とても気になります。
村山:そうですよね。外の世界(相談・支援施設)につながるまでには、「覚悟」が必要なんだろうと私は思います。自分だけが学校に行けない、うちの子だけが学校に行けないという劣等感や恥ずかしさがあったり、保護者の中には、子育てに失敗したと感じる方も多いです。自ら学校に行かない選択をしたんだ!と、最初から不登校をポジティブにとらえられる子は少数派で、少しずつ不登校であることを受け入れられるようになって、そこから外の世界に出て行けるようになる子の方が多いと思います。
中村:私は、相談や支援を受けられない子たちが、家に引きこもってしまっている場合が多いんじゃないかと気になっていて...。村山さん自身、不登校期間は、どう過ごしていたんですか?
村山:私はひたすら寝ていました(笑)。
中村:そんなに寝れるんですか?
村山:日中だけで、13時間は寝ていましたね。さらに夜も5~6時間寝るので、起きている時間は6時間くらいだったかと思います。冬眠みたいですよね(笑)。
中村:実は私自身も、小学5年生くらいの時は、学校に行きづらかったんです。私の場合は、休んだ日は教育テレビ(現在のEテレ)ばかり見ていました。いまだに、Eテレの番組名や「みんなのうた」には詳しいですよ(笑)。
村山:真面目ですね(笑)。私は「起きて、食べて、ゲームして、寝る」という生活でした。言葉だけ見ると、ある意味理想的な生活ですよね。でも、なぜ寝るのか、なぜゲームに走るのか、という背景の部分を知ってもらいたいんです。私個人のことで言えば、とにかく自分のことを責めていました。みんなは学校に行けるのに、自分だけが行けない。ご飯を食べたら、「これで食費いくらかかるのかな」と考えてしまう。冷房をつけたら、「電気代がかかっちゃうな」と考えてしまう。「学校に行っていればかからないはずの負担を、親にかけてしまっているな」という思いが、常にありました。全ての思考が、ネガティブになっていたように思います。
中村:それはつらいですね。
村山:しばらくすると、将来への不安も出てきました。「このままだったら、どうなってしまうんだろう?」「ずっと家にいるのかな?」といったことを考えて、起きていて何もしていないと、どんどん負のループにおちいってしまうんです。そういう時に現実逃避をする方法は、まずはゲームでした。でもゲームにすら集中できない時もあって...あとはもう「寝る」という選択肢しかありませんでした。自分にとっては、ゲームや睡眠が逃げ道であり、生活の支えだったんです。この頃の詳しいことについては、以前のe-Magazine:「いっぱい悩んでいいんだよ」不登校を経た研究者がいま伝えたいこと でインタビューに答えた通りです。
もちろん、私が子どものころは、もっと学校が強い存在でしたし、学校以外の選択肢はほぼない時代でした。だけど、きっと今の子ども達にとっても、学校ってすごく大きな存在だと思うんですよね。そこから「外れてしまう」ことで、自分に対する負の意識を持ってしまうんです。その状態で、自分から「他の道を探そう!」といったパワーや気力は、湧いてこないのではないでしょうか。だからこそ、そういう子ども達にアプローチしていくことが、とても大事だと思っています。
中村:eDojoのプログラム受講対象者は、不登校の子をサポートする支援現場の "大人" の方です。これはけっこう伝わりにくい所があるようで、eboardは、これまで約10年間にわたって子ども達向けにICT教材の開発・提供をしてきたのに、「なぜ "大人" を対象に新たな取り組みを始めるのか?」と思われる方も多いと思うんです。
ICT教材eboardの個人利用者の中でも、不登校の子ども達が、年々増えています。そうした子の保護者の方から、ebooardに感謝の声が届くようになり、良かったなと思う反面、自分達にできることの少なさに常々もどかしさを感じていました。
「私たちにもっとできることはないのだろうか」という思いで各方面にヒアリングを重ねる中で、不登校の子をサポートする皆さんに出会い、考えも深まっていきました。行政や民間を問わず、不登校支援の取り組みが増えている中で、私たちが直接居場所を運営したりするよりも、日々子ども達をサポートする "大人" の皆さんを応援することこそ、すべきことではないか。eDojoは、私たちeboardのそんな思いから生まれました。
▲eDojoの学習画面「学習支援分野」
中村:フリースクールの方はみなさん、「運営が大変です」とおっしゃっていて。学習塾と違ってフリースクールは、全体で見ると約3%しかいない不登校の子を対象としています。子どもを集めるのも大変だし、様々なご家庭があるので、極端に高い料金設定にもできない。「やっていくだけで精一杯」という団体が多いことが分かりました。
一方で親の立場になってみると、もし私の子どもが不登校になったら、どのフリースクールにも100%安心して子どもを託せるかと聞かれると、そうとは言い切れない部分もあると感じました。実際、保護者の方からも、同様の声が聞かれました。運営が大変だから、知識をインプットする時間が取れず、子ども達と関わる時間の質を上げることが難しい。するとさらに運営が大変になる、という悪循環におちいっている団体も多いのではないかと思います。村山さんには、フリースクールはどう見えていますか?
村山:中村さんの課題意識は、その通りだと思います。フリースクールは公的機関ではないので、国や自治体からの補助金も、ほぼありません。スタッフの方に関しても、思いはものすごく熱いけれど、教育は専門ではないという方も多いです。そういう方が、どのタイミングで教育のことを学ぶのだろうか、と気になります。例えば、「ずっとゲームばかりしている子にどう接したらいいのか」といったことについて、しっかり学ばずに、思いのまま対応することで、サポートの質が上がらない状態になっているのではないか、という心配はありますね。
中村:私もそう思います。だからこそ、eDojoでは時間がかかっても、不登校の子のために力になりたいと思っている "大人" の方へのサポートをしていきたいんです。
中村:2022年度、全国のフリースクール計6団体に参加していただいて、eDojoの実証事業を行いました。
私自身も、実証期間中に行われたワークショップなどに参加したのですが、「フリースクール内での学びの機会が、そもそも少ないんだな」と感じました。世界の先進国で、大人が最も学ばない国は日本だという調査結果もあるので、これはフリースクールだけではなく、日本社会全体の話だと思うのですが...。フリースクールの中に、eDojoを外部からの刺激として入れてもらい、各自が自己研鑽しながら、同時に組織のあり方などを議論し、深める。そういう使い方をしてもらえたらいいのではないか、と思っています。
村山:そうですね。受講者アンケートへの回答でも、「お互いの考えを共有できたことで団体内にポジティブな効果が生まれた」といった声が、複数ありました。そういった効果は提供できているのでは、と思います。
▲実証にご参加いただいた「志塾フリースクールラシーナ」理事長・田重田さんへのインタビュー
中村:学校の先生には、一定の研修等が用意されていますが、民間施設では、組織側が研修を提供しないと、スタッフや支援者が学ぶ機会を持てません。「子ども達にいつも "学びなさい" と言っている人が、実は全然学んでいない」という状況になりかねないんです。
これは私個人の考えですが、「子どもと関わる大人は、誰よりも多く学んでいないといけない」と思っています。大人が常に学びながら、その姿を子ども達に見せることが、子ども達が学びに向かう上での、最大の原動力になるんです。本を開いて勉強するということだけではなく、子ども達からも、日々の活動からも、学ぶということ。eDojoによって、そういった学びのサイクルが組織に定着すればいいなと思いますし、今後もそういう効果が残るように、講座の設定をしていきます。
村山:不登校の子の中には、やっとのことでつながったフリースクールにも居づらさを感じて、離れてしまう子もいます。「せっかく外の世界につながったのに、そこすらダメだった」と、自分を責めてしまう負のサイクルになりかねません。選択肢を増やすという意味でも、フリースクールや教育支援センターなど、不登校の子がつながることができる場所の数が、もっと増えてほしいと思っています。
中村:今年度は、教育委員会など自治体での実証も開始しています。ゆくゆくは、学校や教育支援センターの先生・スタッフの方にも、eDojoを届けていきたいですね。
◆現在、eDojoを受講する団体を募集しています。オンライン面談などで個別にご説明もしていますので、興味・関心のある団体の方は、ぜひお問合せください。
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