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  • eboardは、なぜ無料?学びをあきらめない社会を目指して

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    こんにちは。NPO法人eboard代表の中村です。2022年4月、新年度がスタートしました。この時期になると、学校やNPO団体をはじめとして、多くの教育・学習支援現場の方から、eboardに関するお問い合わせやご利用のご希望を頂きます。そこで今回は、なかなか聞きづらいけど、多くの皆さんが気になっている(はず)「なぜ、eboardは無料なのか?」にお答えしていきたいと思います。

    eboardが実現したい「学びをあきらめない社会」

    NPO法人eboardが、そして代表である私には、実現したいことがあります。それが団体のミッションとして掲げている「学びをあきらめない社会」です。経済的困窮や地理的格差、不登校、発達や特性による学びづらさなど、様々な理由から「学ぶこと」を人生の早い段階、子どもの頃からあきらめてしまっている子ども達がいます。そうした「あきらめ」を、子ども達から、そして私たち大人から、社会全体からなくしていきたい、というのが私たちの思いです。


    子ども達が「学びたい」と思った時、思いを持った大人が子ども達の学びを「支えたい」と思った時、いつでも、どこでも、どんな環境にあってもそれが実現できる。そんな社会を目指しています。


    そんなゴールを描いた時、私たちに何ができるのか。現場での活動は、当然その実現に向けて絶対に欠かせないもの、最も大切な活動ですが、現場の取り組みだけで十分かというと、「そうではない」と私たちは考えています。日本の人口が減少し、国としての成長にも陰りが見える中で、社会全体として、教育支援・子ども達支援に割くことができる資源は、当然その比率を高めていく、最大限の努力をしながらも、十分に確保できる保障はありません


    そんな中で、私たちは、現場の活動のごく一部であったとしても、様々な(広い意味での)「技術(テクノロジー)」を活用しながら、全国様々な地域で、子ども達をより効果的に支えられる「仕組み」を作っていく必要があると考えています。その1つとして、いつでも、どこでもアクセスできる、無料で学びを支えられる教材が、この日本に必ず1つは必要だと私たちは考えています。




    「なぜ、無料?」困窮世帯のため(だけ)ではない。

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    eboardは、なぜ無料なのか?もちろん、生活保護家庭や就学援助家庭、平たく言ってしまうと、「お金がない」ご家庭でも、利用できるようにすることが大きな理由の1つです。ただ、それと同じか、それ以上に、無料にしている理由があります。それが、公立学校や非営利活動での利用を想定したものです。



    「使いたい」から、現場に届くまでに3年

    例えば、ある学校の先生が「eboardを使ってみたい」と考えたとします。学校全体で使いたい、というケースもあれば、受験を控えた中学3年生だけというケースや、特別支援学級で使いたい、不登校の子に使ってもらいたいなど、様々なケースがあるでしょう。


    それでは、現場の先生の「使いたい」は、どう実現されていくのでしょうか。先生の「使いたい」が、管理職の先生(校長・教頭)に届きます(届かないこともあります)。その要望を、管理職の先生が教育委員会に伝えます(伝わらないこともあります)。教育委員会では、当然年間の予算が決まっているため、すぐにその学校に導入してもらうことはできません。公平を期すため、要望のあった学校にだけ予算をつけて、導入してもらうこともできません。教育委員会の方に、もし取り組める気持ちと余裕があれば、次の年度、または次の次の年度予算で、教材の導入が検討されます(検討されないこともあります)。


    先生の「使いたい」から始まって3年。やっと、教材は現場に導入されることになりました。ただ、その先生はすでに異動しており、「使ってもらいたい」と思っていた不登校の子は、もう卒業してしまっているかもしれません。3年前の先生の思いや背景は伝わらないまま、市内の全ての学校にこの教材は、導入されることになりました。それは、要望のあった学校以外には、必要のないものだったかもしれません。GIGAスクール以降、教材の導入についてより素早く動くようになったケースもありますが、このような事情は大きくは変わっていません。端末の入れ替え時期にだけ、ICT教材・ツールの導入を検討する自治体も多く、3年や5年のスパンでしか検討されないこともあります。


    無料であれば、この「3年」を「3日」に縮めることができます。3年の間に費やされる膨大なコミュニケーション、事務コストも圧縮することができます。これが、eboardが公立学校や非営利活動でも無償で提供している理由です。思いを持った大人が子ども達の学びを「支えたい」と思った時、いつでも、どこでも、どんな環境にあってもそれが実現できるために、eboardは無料なのです。




    少数派(マイノリティ)の声が届かない

    公立学校での導入に際して、私たちがもう1つ問題だと考えているのは、少数派(マイノリティ)の声が届かないこと。例えば、「市全体でICT教材を導入しよう」となると、いくつも教材を導入することはできないので、数多ある教材の中から1つを選ぶことになります。教育委員会も、できるだけ多くの先生、子ども達の学習環境がよくなるようにと選定をしていくと、どうしても、多数派(マジョリティ)の意見が反映されることになります。多数派の意見が反映されるなら、まだよいかもしれませんが、場合によっては「声の大きい(主張が通りやすい)」先生の意見が反映されることも、しばしば。

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    eboardは、できるだけ多くの子に使ってもらいたいという思いと共に、みんなと同じ学び方や他の教材では、どうしても学べない・学びづらい子にこそ、学びを届けたいと考えています。2020年からスタートした、映像授業に分かりやすい字幕をつける「やさしい字幕」の取り組みは、まさにその一例です。やさしい字幕は、ろう・難聴の子はもちろんのこと、日本語学習の支援が必要な外国につながる子、視覚情報が補われると学びやすい子など、数で言えば少数派の子の学びを保障するものです。


    「市全体でICT教材を導入しよう」という時に、多数派が学びやすい教材が選定されることは、決して悪いことではありません。ただ、それによって、障害や言語、発達や認知、学習方法の観点から、少数派になる子に学びが届かない、学びづらくなってしまうことがあってはいけません。「みんなが使う教材」に加えて、たとえ1人であっても、その子が学びやすい教材を選択できるように。eboardが無料だからこそできる、「選択の機会」をつくってあげたいのです。




    どうやって、無料でできるのか?

    「なぜ、無料なのか?(WHY)」と同時に、「どうやって、無料でできるのか?(HOW)」についても、聞かれることがあります。NPOとして、「すべて寄付で成り立っています」と言いたいところなのですが、実は寄付で成り立っている部分は少なく、学習塾などの民間教育現場へのご提供や、映像授業の教育企業へのライセンス提供などを通じた「事業収入」で、成り立っている部分が大きいのが実情です。個人の方からの寄付で見れば、年間支出全体の約5%となっています。

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    これは決して悪いことではないのですが、NPOとして無料の教材を提供し続けることを考えたとき、やはり少額であったとしても、できるだけ多くの方にeboardの活動を支えてもらいたい、と考えています。事業収入は、市場の環境に左右されるところがあるだけでなく、そこからの収入だけで成り立っていれば、そちらを向いた事業や教材の開発になりかねないからです。


    先にご紹介した「やさしい字幕」字幕の対象となる子ども達は、全体で見れば少数派(マイノリティ)であるがゆえに、これまでの営利ビジネスの枠組みの中では、字幕がついた映像授業はつくられてきませんでした。この取り組みが実現したのは、多くの企業からのご寄付によるものです。


    正直にお伝えすると、「3年後、4年後にeboardが存続していける保障はない」のが現状です。eboardが、ここまで書かせて頂いたような考えの下、持続的に無料で教材を開発・提供し続けていくためにも、一人でも多くの個人の方の寄付で、eboardを、全国の子ども達の学びを支えて頂けると、ありがたいです。

    寄付について、詳しくはこちら


    eboardを使ってみたい方へ

    ● ご家庭(個人)や公立学校、非営利活動(ご家庭から金銭を受領しない)では、eboardを無料でご利用頂けます。アカウント登録でも、自由に映像授業やデジタルドリルで、学習を進められます。
    https://eboard.jp/list/

    ● ご家庭(個人)でのご利用で、学習履歴が残るアカウントを希望される場合は、以下のフォームよりお申し込みください。現在、個人アカウントの発行は、以下の方のみを対象としております。
    ・経済的な理由から、他の教材・教育サービスの利用が難しい方
    ・不登校もしくはそれに近い状態にある方
    ・障害や特性等から学習に困難がある方
    ・その他、NPO法人eboardがアカウントの発行が必要と判断させて頂いた方
    ご家庭(個人)アカウント申請フォーム

    ●  公立学校、非営利活動でのご利用で、学習履歴が残るアカウントを希望される場合は、審査申込書のご提出が必要です。詳しくは、以下のページをご覧ください。
    https://info.eboard.jp/use_at_schools

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