


2026年10月10日(土)に行われた「第18回コモンズ社会起業家フォーラム」において、「社会起業家10名による7分間スピーチ」の登壇者としてNPO法人eboard代表理事・中村孝一が登壇しました。当日は多くのご関心をお寄せいただき、誠にありがとうございました。
本記事では、代表・中村がスピーチに込めた想いのすべてをお伝えするべく、当日のスピーチ全文を掲載いたします。
目次

NPO法人eboard 代表理事
中村 孝一
みなさん、こんにちは。NPO法人eboard代表の中村です。
私たちは10年以上にわたって、映像授業とデジタルドリルで学習できる無料のオンライン教材「eboard」を運営してきました。10,000ヶ所以上の学校・教育現場を通じて、毎月20万人以上が利用しています。
今日は、そんな今の活動に至るまでの転機をくれた、3つの出会いの話をさせてください。
一人目。それは今の活動を始めるきっかけをくれた、学生時代の出会いです。
当時働いていた学習塾にやってきたのが、中学2年生の田中くん。
非行グループと仲がいいけれど、そこまで悪いことはできない、小柄で人懐っこい、そんな子でした。
でも、勉強はからっきし。テストは30点取れればいい方で、1桁の時もありました。
「おれアホやから、どうせやってもできんし」。出会った頃の彼の口癖でした。
勉強を始めて見ると、小学校で習う小数や分数がわからず、まだ書けないアルファベットもある。
学校の授業から何年も遅れている状態でした。
なんとかこの子に「学ぶ楽しさ」を知ってもらいたい。私は、授業以外の時間も必死でサポートするようになりました。
数年後、そんな現場での経験が忘れられなかった私は、会社を辞め「学びをあきらめない社会を実現する」というミッションを掲げ「eboard」を立ち上げました。
立ち上げから数年たったある日、利用者の方から、こんなメッセージが届きました。
「私はずっと不登校で、勉強をしてきませんでした。もう今さら勉強なんて……と諦めていました。でも、ebaordの動画はとても分かりやすく、夢中で見ました。勉強していて『分かる楽しさ』を感じたのは、本当に初めてです。」
この出会い、そしてそこから始まった私たちの活動は、たとえ今、どんなスタートラインに立っていたとしても「学びをあきらめなくていいんだ」ということを教えてくれました。

2人目。それは、新型コロナで全国の学校が一斉に休校になりeboardへのアクセスも急増していた頃でした。
そんな中、聴覚障害のある大学生から1通のメールが届きました。
“私は受験生だった時、学習に利用できるサービスが一つも存在せず満足のいく勉強ができませんでした。
日本には、8,000人以上の聴覚しょうがい児がいます。動画に字幕をつけて頂くことの御検討を、心よりお願いします。”
なんとかこの声に応えたい。しかしその後見えてきたのは、ただ音声を文字起こしした「普通の字幕」では難しい、ということでした。言葉や文章をわかりやすく編集する必要があったんです。
動画は全部で2,000本以上。途方もない作業に思えました。
けれどそんな時力を貸してくれたのが、ボランティアの人たち。最終的には1,000人以上のご協力で、全ての字幕が完成。eboardは、字幕を実現した日本で唯一の動画教材になりました。
全国で字幕を見ながら学ぶ子どもたち。その1人が、手話でこんなメッセージを届けてくれました。
「授業では、わからないまま進んでしまうことが多かったので、後になって、困ることがたくさんありました。でも、eboard なら自分のペースで、勉強を進められます。」
この出会い、そしてそこから始まった「字幕」の取り組みは、たとえ障害があったとしても「学びをあきらめなくていいんだ」ということを教えてくれました。
3人目。この「やさしい字幕」の取り組みは、ろう・難聴の子だけでなく、外国ルーツの子や発達障害の子の学びもサポートする手立てになっていきました。
そんな中で、出会ったのが難民支援団体の卒業生。私は、どうしても彼女の言葉を忘れることができませんでした。
「自分の子どもは、絶対に、日本の学校には通わせたくない」
日本の学校で日々を過ごす、外国ルーツの子たち。なんとかこんな思いを抱いてしまう現状を変えたい。
そんな思いから、私たちはあるアイデアの実証に乗り出しました。
2年の歳月を経て、今年の4月「やさしい日本語」ツールの提供を開始。
このツールは「やさしい字幕」と同じように、ただしAIを使って、入力された言葉や写真のなかのテキスト、先生やクラスメイトが話す言葉を瞬時に「やさしい日本語」に変換します。

地方にある小さな高校。中学3年生の夏に来日し、ちょうどこの4月から高校に進学する子がいました。先生がこのツールを見つけてくれ、入学当初から使ってくれています。
1学期が終わった頃、こんなメッセージが届きました。
「高校生活に少しずつ慣れてきました。最初は大変でしたが、毎日頑張っています。ソフトは時々止まってしまいますが、大丈夫です。たくさんの友達ができ、少しずつ距離が縮まっています。」
この出会い、そしてそこから始まった「やさしい日本語」の取り組みは、たとえ国の違い、言葉の違いがあったとしても「学びをあきらめなくていいんだ」ということを、教えてくれました。
私たちの活動は、今目の前で困っている子どもに直接手を差し伸べるものではないかもしれません。
1人目の田中くん。私が覚えているのは「先生教えてや」とやってくる人懐っこい彼の姿よりも、家庭環境に変化があって塾を辞めていった、その日の姿です。
eboardも、字幕も、やさしい日本語も、全て当時の彼には届きませんでした。
だからこそ私たちは、「次の一人」を生まないための取り組みに、全力を注ぎます。
この社会全体で、どこかで誰かが「学びをあきらめてしまう」確率を1%でも下げにいく。
「どうせやってもできんし」。そんな言葉で、子どもが自分をあきらめなくていい社会をつくる。
それが、私たちの「学びをあきらめない”社会”」を目指す活動です。
今年のフォーラムのテーマ、「あなたは、誰と、どんな未来をひらきますか?」
私は、今日ここにいる皆さんと学びをあきらめない未来をひらきたい。
経済的な理由、不登校、障害、言葉の壁。
きっとみなさんの周りにも、「学びをあきらめそうになっている」子がいるんです。
そんな時にeboardがあることをお伝えいただければ、1人でも、1%でも、その子の学びを一緒に支えていくことができます。
そんな私たちの「学びをあきらめない社会」を目指す活動、はじめていきませんか。
本日は、お話を聞いてくださり、ありがとうございました。
2025年11月7日
NPO法人eboard 代表理事 中村孝一
▼実際のスピーチ動画を公開しています。ぜひご覧ください。
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