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  • 福島・会津の地で 不登校を支えてきた23年活動史:フリースクール寺子屋方丈舎インタビュー

    2022年10月に文部科学省から発表された不登校児童・生徒の数は、過去最多の244,940人(小中学校計)。そのペースは 小学生が 4年で約2.3倍、中学生が4年で約1.5。福島県で20年以上にわたり、不登校の子ども達の居場所・学びの支援を続けてこられた、NPO法人寺子屋方丈舎 理事長、そしてNPO法人フリースクール全国ネットワークで代表理事も務める江川和弥さんに、不登校のこれまでとこれからについて、お話を伺いました。

    20年以上「学校に行かない・行けない子」にむけて

    寺子屋方丈舎を立ち上げたきっかけについて、教えてください。


    ▲寺子屋方丈舎理事長、フリースクール全国ネットワーク代表理事 江川和弥さん


    当時私は、会津若松市の教育委員会で不登校や非行の子どもたちの相談事業を、担当していました。働いていた自治体でも不登校の子は増えていましたが、適応指導教室(自治体が運営する不登校児童・生徒の学習指導・支援を行う教室。現在は、教育支援センターと呼ばれることも多い)で受け入れられる子は、義務教育年齢の15歳まで。当然、他の自治体のご家庭から相談があっても応えることはできませんでした。そうした状況を目にする中で、行政でできることの限界を感じ、不登校の子ども達の居場所として、1999年寺子屋方丈舎を始めました


    その後、週末には環境教育事業、3.11以降は被災者支援、2015年からは子ども食堂も運営しています。ただ、軸として、「学校外の学び」があります。多様な学び方があっていい、参加する子どもにも多様な子どもがいてよいという思いから、各事業が成り立っています。



    「学校ぎらい」から「登校拒否」、そして「不登校」に

    20年以上、フリースクールを運営されてきた中で、当時と今、「不登校」にどんな変化を感じていますか?


    ▲福島県会津若松市にある寺子屋方丈舎の事務所・フリースクール


    当時はまだ、「不登校」という言葉が一般的ではなく、「学校ぎらい、学校恐怖症」や「登校拒否」と呼ばれていた時代でした。その言葉からわかる通り、学校に行けないことは「何かしらの病気ではないか?」「親の養育に問題があるのではないか?」など、本人や家庭の問題とされる傾向がありました。


    不登校について誤った理解や歪んだ認識をされることも多く、全国紙に「不登校は病気である」というような学者の主張が掲載されたこともありました。母親の育児が子どもに病気や問題をひき起こすと考える「母原病」という言葉まであったほどです。「不登校を治す」というような間違った考えから、子ども達の死につながるような 凄惨な事件が起きてしまうこともありました。そんな社会の中では、不登校になった子ども、そして保護者も、学校に行けなくなると 自分自身を強く責めてしまいます


    当時は、社会、学校に対して正しい理解を求めていこうと、フリースクールや親の会が中心となった運動が、さかんに行われていました。その運動の最初の大きな成果となったのが、平成4年(1992年)に文科省から出された通知です。それまでの国の見解が大きく改められ、不登校は「誰にでも起こりうる」という見方に変わりました。寺子屋方丈舎の活動がスタートしたのは、そうした不登校に対する社会の見方が 変化し始めた時期。この2000年前後は、全国的にもフリースクールの数が増えた時期でした。


    一方で、当時から変わらないところもあります。特に保護者の悩みは、23年前と変わらないところが多い。子育ての失敗だと思って、自分自身を責めてしまう。親の世代の多くは、自分自身が学校に通っていた経験しかなく、不登校に対する社会の受け止め方が変わる前に、学校を卒業しています。保護者対応を長年続けていると、小学校については、徐々に親の意識の変化を感じるようになってきていますが、まだまだ変化に時間のかかる部分です。



    ▲寺子屋方丈舎では 不登校の「親の会」を定期的に開催している


    同じく、地方での不登校のとらえ方も、都市部に比べると変わっていないところがあります。不登校やフリースクールの数も多い都市部とは異なり、地方では、不登校であること が地域に知られ、特別視されてしまう。「不登校の子が地域の目が気になって、昼間外を出歩けない」という状況は、変わっていないかもしれません。



    フリースクール全国ネットワークでは、教育機会確保法(2017年施行)の成立に大きく尽力されてきました。どういった思いで活動されてきたのでしょうか?


    教育機会確保法とは
    不登校児童生徒に対して、学校内外での学習機会の確保や個々に応じた支援の提供を目的とした法律(20172月施行)。正式名称は「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」。子ども達の「休養の必要性」を認めると共に、民間のフリースクールや公立の教育支援センター、不登校特例校など、学校以外の教育機会を確保する施策を国と自治体の責務とし、必要な財政支援に努めるよう求めている。

    2008年から、議連(議員連盟)が組織されて政策提案を始めるようになったのですが、転機となったのは、2013年のいじめ防止対策推進法です。学校でのいじめが社会問題化し、子どもの人権に対する意識が高まっていた時期でした。いじめ問題でも「いじめられる側が悪い」という解釈がありましたが、それが不登校にもありました。この構造を変えるためには、法律という明文化された形で、不登校の子ども達への理解と保障が示される必要があると考えたんです。


    それまでは、文科省ではフリースクールについて「認知していない」というスタンスでしたが、徐々に政府与党内にも関心を持ってくれる層が広がり、2016年に法案が可決、2017年に施行されました。


    ただ、活動の思いが法案に全て反映されていたかというと、そうではありませんでした。当初は、「多様な学び保障法(子どもの多様な学びの機会を保障する法律)」として、単に教育機会の確保を目的とするだけでなく、子どもの学ぶ権利を保障することを目的として、多様な学びの場が選択できるようにすることを目指していました。教育機会確保法は、教育機会の確保を掲げていますが、その多様性や子どもの権利について、多くは触れられていません。


    多様な学び保障法骨子案の目的:この法律は、子どもが、その個性を尊重され、一人ひとりそれぞれの学習のニーズに応じて、多様な学びの場を選択できるようにし、普通教育の機会の確保と環境を整備し、基本的人権としての子どもの学ぶ権利を保障することを目的 とする。

    ただ、当時立法化されたことには、とても大きな意義があると考えています。2019年には、教育機会確保法の流れを受けて、「学校復帰」を前提としたこれまでの不登校対応の方針が見直されました。「こども基本法」ができた今、子どもの権利としての学習権について、もう一度考えていくタイミングが来ていると思います。

     


    課題を超えて、地域とつながる多様な学びの場所に

    フリースクールが抱えている課題には、どんなものがあるでしょう?


    フリースクールが抱える最も大きな課題は、組織基盤の整備に関するものでしょう。フリースクールそもそもの性質として、不登校の子ども達を対象としているため、子どもの登録や参加も不安定で、年度や同じ1年の間でも、大きく状況が変わってしまうことがあります。全国どこにでも不登校の子はいるので、必ずニーズはあるのですが、その性質が故に20人以下の小規模なものが多い。経営が不安定だと、当然スタッフの定着も弱く、代表とボランティアだけで運営しているケースも多くなっています。運営面では、人材の育成も今後大きな課題になってくるでしょう。


    こうした課題に対して、フリースクール、特に地方のフリースクールについては、寄付やボランティアなどの経営支援を 地域から集めていく必要があると感じています。


    ▲寺子屋方丈舎では地域と連携した「子ども食堂」などの事業も行っている


    かつては、不登校に対する地域からの認知も少なく、地域に出ることに抵抗感がありましたが、フリースクールが行政と連携して相談会を開催するなど、行政や地域との連携も増えてきています。地域コミュニティに根差しうまく地域の資源を活用できないと、フリースクールが存続・発展していくことは、できないのではないでしょうか。


    加えて、子どもや家庭、社会のニーズに応えていくためにも、居場所としての役割も大切にしつつ、「学校に行かない時間で何をやるのか」を考えていく必要があります。子どもの興味・関心を高め、自分のアタマで考えられる学びをつくっていかなければなりません。コロナで副業や在宅勤務も増え、社会や保護者のライフスタイルも変化しています。オンライン学習も含めて、フリースクールが子ども中心な学びを提供していければと思います。



    社会や行政、そして私たちが、フリースクールや不登校の子ども達にできることはあるでしょうか?


    社会や行政に期待することとして、全額でなくても、全ての子どもを対象にしたものでなくても、フリースクールに通う子ども達が、一定の財政的な支援を受けられるようになればと願っています。本人が望まない原因で不登校になったものの、経済的な理由によって、学びの機会が保障されないことがあってはいけません。


    こういう話をすると「公立学校が選択されなくなり、公教育が崩壊するのではないか」という話をされることがあります。しかし、財政支援が充実している海外のケースを見ても、公立学校とフリースクールなどのオルタナティブな場所の生徒数を比較すると、概ね9:1くらいの割合で安定しているようです。多くの子は、公立学校を選択するのではと思います。




    残念ながら、今の教育からあふれてしまう子は多く、増加を続けています。地域に安心できる、学校外で学べる場所が増えていくことが、何より大切なことです。フリースクールに関心がある方は、ボランティアから関わり始めてみてもいいです。近くにフリースクールがないという方は、不登校の子も関わるような場所を地域のコミュニティセンターなどで、週1回、月1でもやってみるといいのではないでしょうか。不登校の子ども達と関わることは、自分自身にとっても学びになる活動です。

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