教育現場で利用する
教育現場で利用する
2020年、新型コロナウイルス感染拡大の第1波で、全国一斉休校となった日本。日本より急速に感染が拡大したアメリカの教育現場、先生は、その危機にどう立ち向かったのでしょう。2020年4月から、eboardをご利用頂いている「ピッツバーグ日本語補習授業校」の先生方にお話をうかがいました。
改めて、日本語補習授業校について、教えてください。
中山先生:日本語補習授業校(以下、補習校)は、海外にある現地校の子どもが、再び日本の学校に編入した際にスムーズにできるよう、基礎・基本の知識や技能、日本の学校文化を日本語で学ぶ学校です。こういうと「日本人学校」を思い浮かべる方が多いかもれませんが、日本人学校は大きな都市にしかありません。ピッツバーグの近くだと、シカゴやニューヨークにありますが、補習校の方が数は多いんです。全米では全校生徒が10人ほどの寺子屋のような小さな補習校から、500人以上のマンモス校まで35校ほどあります。
日本人学校との大きな違いは、補習校はあくまで補習であること。日本人学校は、平日毎日通う、日本語で学ぶ全日制の学校ですが、補習校に通う子は、平日はアメリカの現地校に通い、それとは別に週末に補習校に通います。だいたいの日本語補習校というと、運動会や書初めといった学校行事や日本文化を学ぶ活動を取り入れながら、主には日本語で国語や算数などの教科の授業を行い、日本に帰国した後の勉強に困らないようにするのが目的です。
ピッツバーグという地域や補習校の特徴はありますか?
中山先生:補習校は「日本に帰る子」が前提ではあるのですが、ピッツバーグでは企業からの赴任が少なくなってきていて、1〜2年の短期滞在の方と永住される方に分かれてきています。
かつては、大手電器メーカーの社員が多く来られていたのですが、現在は、カーネギーメロン大学やピッツバーグ大学など、留学・研究に来られているご家族も多い。この場合だと、1〜2年での帰国が多くなります。一方で、永住や帰国を予定しない方も多く、今日集まってもらった補習校の先生も永住や帰国予定のない方。伊是名先生、Lee先生、ドイツ先生は配偶者がアメリカ人です。
そうなると、ご家庭によって、日本語を学ぶ・日本語で学ぶ意義やゴールが多様になってくる んです。永住組の中でも、しっかりと日本語での学力を身につけてほしいという方もいれば、継承語(親から受け継いだ言葉)として学んでおいてもらいたい、という方もいます。当然、子ども達の日本語力も学力もばらつきが出るので、比較的少人数ではありますが、そこが授業の難しさを感じるところです。
新型コロナが広がり始めた2020年4月から、ピッツバーグ校では、eboardをご利用頂いています。この間、日本でも全国の学校が一斉に休校になりました(2020年3月〜5月)が、アメリカの学校(現地校)の対応は、どのようなものでしたか?
中山先生:同じ州の中でも学区や公立/私立で、対応に大きな違いがありました。実は、私たち補習授業校の教員も、それぞれ住んでいる学区が違っているので、自分たちの子どもの状況も全然違ったんです。先生方、どうでしょうか?
ドイツ先生:3月に休校になりましたが、最初はテキストを配られて、自宅でそれに取り組む形でした。言ってしまえば、宿題と同じですね。そのまま夏休みに入りましたが、夏休み明けからはPCが配布されて、通常と全く同じ時間割で、オンライン授業が始まりました。うちの子は今3年生なんですが、1年生の後半からテキスト学習、2年目はオンライン授業が丸1年続いて、3年生になって対面授業が再開しました。
オンライン授業が丸1年ですか?日本では、ちょっと想像ができないです。
ドイツ先生:ピッツバーグ市内は、これでも対応がかなり遅かった方です。子どもは、なんだかんだで楽しそうにやっていました。さすがにすベてオンラインだったので、集中が続かないような時間もあったようですが。
伊是名先生:うちの子は現在現地校で中学2年生なんですが、コロナ前からすでにiPadを支給されていたので、次の週からすぐにGoogle Classroomが整備されて、オンラインに切り替わりました。小学生も同じです。ただ、始まった当初はインタラクティブなものは少なく、録画の先生もいれば、ライブでやる先生もいて、対応はまちまちでした。夏休み明けからは体制が整って、基本的にライブで皆さん授業をされるようになりました。
河辺先生:休校後1週間だけ準備期間がありましたが、すぐにオンラインに切り替わりました。ただ、3月から6月までは、やはり授業内容にばらつきがありました。2020年の夏休み明けからは対面授業も復活しましたが、毎日対面ではなく、日本でいう「分割登校」が続きました。
同時に、学区の中に、100%オンラインのサイバースクールが作られました。1年間の授業を4期に分けて、その期間ごとに対面とサイバーを行ったり来たりしてよい、というシステムです。この移動を可能にするために、それぞれの担当の先生がオンラインとリアルの学校の進度を、調整してくれていました。システムとしては素晴らしいけど、先生によって授業のスタイルが違うので、思ったよりうまくはいかなかったようです。それでも、その仕組みがあったことで、感染が拡がっているときにはオンライン、収まっているときには対面を選ぶなど、助かった人は多いと思います。
Lee先生:うちの子は私立なんですが、春休みが終わったらオンラインにすぐ切り替わりました。学校やクラスの人数は少なく、プロジェクト型の学習を重視されているので、8月後半からは対面に戻りました。対面が気になる子は、オンライン参加も選べるようになっていました。ただ、対面での教室移動を減らせるように 時間割を再編成したため、「毎日数学ばかり」のような期間もあったので、辛かったようです。屋内の部活動は制限されていました。
学区によって、そこまで対応が違うんですね。とてもアメリカらしいです。そもそも、そうした個別対応の予算は、どこから出ているんですか?
河辺先生:アメリカの多くの州では、州ごとに共通テストを実施しているのですが、そのテスト結果は公表され、学校や学区のランク付けに利用されています。当然、教育に関心の高い親は、いい学区の学校に子どもを通わせたがります。需要が高まるので、その学区の地価がどんどんあがり、その結果、いい学区には教育熱心で所得の高い家庭が集まるようになります。学校の予算の半分近くを占めるのがSchool taxという学区ごとの税金なのですが、いい学区のSchool taxは高いために学校は十分な予算を確保できます。残念ながら、学校間の格差が生まれ、広がる仕組みになってしまっている現状があります。
オンライン授業が続いたことによる弊害はありましたか?
中山先生:すぐに目に見える弊害はなかったように思いますが、徐々にいろんなところで影響が出てきているように感じます。
Lee先生:うちの子の学校(私立)に新入生として 今年入ってきた生徒の中には、前の1年間、公立でオンラインのみの授業しか受けれなかった子達が、多く見られたようです。カレッジカウンセラーの先生たちの間では、新入生の学力が下がっているのでは?という話もありました。
伊是名先生:うちは上の子が現地校で中学2年、下の子4年生なんですが、上の子いわく、下の子の宿題が自分の時と比べて、とても多いとのこと。オンライン授業が続いた1年で とりこぼしてしまった内容を、宿題で補っているみたいです。生徒どうしのつながりが薄くなり、うつになってしまう子が増えたとも聞いています。
補習校の授業では、授業でオンラインの弊害を感じていました。日本語ができる子はいいけど、まだできない子には学びづらく、あまり伸びなかった様子。保護者のサポート次第で補えるけど、それが不十分な場合、日本語を学ぶ気力がなくなってしまい、補習校をやめてしまう子もいました。日本語を話せる友達と直接会えなくなったことも、影響していると思います。
河辺先生:そうですね。うちの子も、フルオンラインの時は、さすがに集中できていない時がありました。小さな画面で朝7:30から、ずっと授業が続いたので。昼休み以外は休み時間が短くて、授業の間は3分ほどしかありませんでした。ですから、きちんと学べなかった部分を家庭がどれくらいサポートできるかで、学力の差が出てしまったように思います。対面以上に、家庭環境の差が出やすいと感じました。
中山先生:ニューヨークでは、未習になってしまった箇所が多かったため、学期末に受けるテストがなくなったと聞いています。学区のレベル判断にも使われているものですが、オンラインで学力が落ち混んでしまっているため、受験を強制できなくなったそうです。
現地校ではオンライン授業が続いたとのことですが、補習校では、どう対応されたのでしょうか?取り組みについて、教えてください。
中山先生:補習校でも、現地校と同じタイミングで、1年間オンライン授業に取り組みました。いつもは国語と算数で週に5コマの授業をしていたのですが、まずは1コマに減らし、慣れてもらってから夏休み明けから2コマ、3コマと回数を戻していきました。2021年の2月からは、対面授業も再開し、対面とオンラインのハイブリッドでできるようにしました。
そんな中、導入して頂いたeboard。どんなふうに活用されていたのでしょうか?
中山先生:授業回数がオンラインの週1回に減ってしまい、どうにかそれを教材でカバーできないかと探してたところ、eboardにたどりつきました。見つけた時は「こんな教材があるのか」と感動しました。
伊是名先生:国語は補習校では、読解や作文が中心になりますが、それ以外の授業では、eboardをフル活用させてもらいました。コマ数が減った中で、算数は全てeboardで学習。教員は、履歴を見ながら理解度を確認し、授業では動画を見てもわからないところを補充していました。オンライン授業が終わった後も、「わからなかったらこの動画を見て」と働きかけをしています。
Lee先生:国語・算数が中心になる補習校では、どうしても社会や理科の授業に時間を割くことができません。社会は1年に8回の授業しかなく、理科に関しては自主学習のみです。ここでも、eboardを使わせてもらいました。アメリカ生活が長いと、教科書を読むのも大変ですし、読んでるだけでは理解できません。特に社会は日本のことでわからないことも多いのですが、動画があることで、少ない授業でも理解を進めることができました。
中山先生:eboardの動画は、語り口がとてもいいです。授業をしているというよりは、優しく説明してくれるような雰囲気。そしてお声が素敵ですよね(笑)
現在は、現地校も補習校も対面授業に戻っているとのことですが、ICTが整備されたことで、何か変化はありましたか?
伊是名先生:補習校では、引き続き、eboardは大活躍です。コロナだから、オンラインだから使うというよりは、授業時間の確保が難しい補習校では、自分で学んでいけるeboardは、とてもありがたい存在。授業の中というよりは、予習や復習、家庭での宿題や自習に使ってもらっています。
中山先生:それ以外の利用する教材も学区ごとに決められていますが、基本的にLMS(Learning Management Sysyte:学習管理システム)が入っていて、そこで成績やテストなどを管理していることが多いです。あとは、ドリルやクイズ教材ですね。
挙げて頂いた教材・ツール
日本の学校では、「授業の中で使う」というのが、家庭や宿題での利用より注目されがちです。先生からも「授業で使わなければならない」という意識を感じます。
子ども達の話を聞いていると、小中学生においては、授業の中で端末を使うことは、あまりないようです。各教室にプロジェクターがあるので、それを使って先生が提示をすることはあるようですが、端末は予習や復習、宿題での利用が中心です。
伊是名先生:これまで、ポスターなどを作ってプレゼンテーションをしていたところは、やはり(Power Pointなどの)スライドに代わりました。ただ、それも授業中にやるというよりは、宿題として各自準備をしてきて、授業中に発表だけするという形が多いようです。
授業では、リアルでしかできない活動や、コミュニケーションを大事にされている印象です。日本では、先生の指示で、一斉に端末を使うということになりがちなんですが、その子が自由に、自分のペースで使って、学べるようになるといいなと思っています。本日は、長時間にわたるインタビュー、ご協力いただきありがとうございました。
メールマガジン
eboard メールマガジン【登録無料】では、eboardの活動だけでなく、
GIGAスクール構想下での学校教育や学習支援、ICTを活用した学習方法など、
様々な情報をお届けしています。ぜひご登録ください。