この度、地方自治専門週刊紙「自治日報」2026年4月20日号に、eboard代表理事 中村孝一による寄稿記事が掲載されました。
本記事は、先日実施した「先進自治体における不登校支援施策に関する調査報告会」の内容を反映し、自治体が直面する課題や今後に向けた提言をまとめたものです。下記に寄稿記事全文を公開いたします。ぜひご覧ください。
【掲載誌情報】
- ●媒体名: 地方自治専門週刊紙「自治日報」2026年4月20日号
- ●発売日:2026年4月20日
- ●タイトル: 不登校急増、3人に1人が支援の枠外に —教育機会確保法10年、今自治体に求められる役割—
- ●発行:株式会社 自治日報社
不登校急増、3人に1人が支援の枠外に ―教育機会確保法10年、今自治体に求められる役割―
NPO法人eboard 代表理事 中村孝一
不登校が急増している。この10年間で小学校では5.3倍、中学校では1.4倍となり、小中学生の不登校は全国で35万人に達した。実感しにくい値かもしれないが、これは四国4県の全小中高生に相当する。
これほど短期間での急増に対して、全国的に支援体制は追いついておらず、およそ3人に1人にあたる13万人が専門的な支援を受けられていないのが現状だ。学校は、学業だけでなく、健康や福祉の窓口的な役割を果たしており、それが脅かされかねないというのは喫緊の教育課題と言える。
私たちNPO法人eboardは、10年以上にわたってインターネット上で無償で学べるICT教材を提供してきた。1人1台端末が整備された現在では毎月20万人が利用しているが、不登校の増加に伴い、家庭だけでなく、行政の不登校支援施設である教育支援センターや民間のフリースクールからのアクセスも急増した。現在では、自治体との連携事業や教員・支援者向けの研修も行っている。
今回私たちは、不登校支援施策検討の一助となるべく、先進的な取り組みを行う全国14の自治体に対して独自調査を行った。学校を中心とした国主導の施策では支援が追いつかない現状に対して、意欲的な地方自治体が独自の取り組みを進めているのだ。本記事では、本調査で得られた知見を、自治体の教育政策を担う皆さんと共有していきたい。
まず、今回の調査で明らかになったのは、先進的な自治体においてもその実行施策に2つの発展パターンがあるということだ。
1つ目が、行政が主体となり公的領域の枠組みを拡充する「制度拡充経路」だ。これは、国が示す方針を発展させる方向性で、教育支援センターの量や質の拡充が基本となる。より発展的な取り組みとしては、不登校の受け入れに特化した「学びの多様化学校」の設置、オンラインの活用なども該当し、これらは主に教育委員会予算で取り組みが進められている。
2つ目が、フリースクールやこどもの居場所等を運営する民間団体との連携、さらには育成を目指す「民間育成経路」だ。近年特に増えているのが民間施設利用にかかる利用料を家庭に補助する制度で、これは民間への間接的な支援にあたる。また、より直接的に団体に対して補助金や研修を提供する自治体も増えてきた。ここには、教育委員会予算に限らず、広く子ども支援を担う部局からも予算が当てられることが多い。
自治体へのヒアリングでは、取り組みの成果と同時に、当然ながらどちらの発展経路においてもそれぞれの課題が見られた。
まず「制度拡充経路」だが、こちらは国の施策に則ったものであるため、当初の施策化や予算化に大きな障壁はないものの、施策を拡充しようと思うと、現場人材の質・量の確保が課題となってくる。退職教員への働きかけ等も行われているが、学校現場でも人材が不足していることから充足はなかなか難しいのが現状だ。
一方の「民間育成経路」では、コミュニケーションが課題となりがちだ。不登校支援において民間が果たす役割は重要だが、そこに税金を投じるには一定の基準が必要だ。民間とのコミュニケーションはもちろんのこと、政策を担う担当部局や関係機関での合意形成、市民への理解促進も欠かすことができない。
いずれの課題も一筋縄では解決できない、時間のかかる取り組みだ。こうした調査の結果を受けて、私たちから以下のような提言をさせていただきたい。
まずは、早期に民間団体と対話を始めてもらいたい、ということだ。制度拡充型で発展を遂げてきた自治体においても、一定の段階まで達すると質と量の課題に直面する。いずれかのタイミングで民間との連携は不可欠となるだろう。
民間との関係構築には時間を要することも多く、事前のアクションが重要だ。各地域には民間団体によるコンソーシアム組織が存在していることも多い。そうした組織と積極的にコミュニケーションを取り、まずはお互いが無理なく合意でき、協働できる分野を見つけてもらいたい。
2つ目が、先行する自治体から学ぶ際には、施策の細部を見てもらいたいということだ。「戦略は細部に宿る」と言われるが、同じ施策でもその成否が分かれる自治体が散見された。
例えば、フリースクールに補助を出すといっても、競争原理が働く都市部と、地域に1つしか民間の受け皿がない地方では、補助の意味合いが違う。利用料だけでは成り立たないフリースクールに対して財政的な支援を行う場合、その置かれた状況は一様ではない。財源や施策を担う部局や人員の体制など各自治体の置かれた状況に応じて、施策の細部を見極めて検討してもらいたい。
そして最後に挙げておきたいのが、学校外の施策と共に学校「内」の施策を両輪で行うということだ。すべての子どもたちが過ごしやすく、学びやすい学校づくりを進めることが不登校支援施策の要である。不登校に直面したとき、大人はその子に原因があると考えてしまいがちだが「学校に行きたくない」という状況を生んだ環境にも目を向けるべきだ。教員やカウンセラー等専門職の配置、別教室の環境整備や校則の見直しなど、学校全体の環境を調整することは他の子どもたちにとっても助けになる。
不登校の子どもたちの教育機会保障を目指した「教育機会確保法」が成立して、まもなく10年。13万人という数字から見て、国や自治体は法律で定められた責務を十分に果たしていると言えるだろうか。
子どもたちを学校や地域社会とのつながりが途切れたまま放置しておくのか。それとも、学校や地域、民間がつながりを作り、社会へとつなげていくことができるのか。少子高齢化の中で、生まれてくる子どもたちを迎える政策とともに、生まれてきた子どもたちを育む政策づくりにも目を向けてもらいたい。
(「自治日報」2026年4月20日号)