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  • 技術は「誰かのために」を形にするプラットフォームになる 株式会社セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 伊藤孝さん

    2020年3月〜5月、新型コロナウイルスの感染拡大により、全国の学校が一斉休校に。 ICT教材eboardは、休校中の「学びを止めない」ツールとして、文部科学省や全国の教育委員会から学校に紹介され、休校期間中、100万人以上の方に学びを届けることができました。

     

    一方で、その間 障害や言語の障壁により、学びを届けられなかった子どもたちの存在も浮き彫りになり、映像授業に字幕をつける「やさしい字幕」プロジェクトがスタートします。日本全国の学びを支えたeboardのコロナ禍の取り組み。それを人、技術、資金の提供を通じて、バックアップしてくださった株式会社セールスフォース・ジャパンの伊藤さんに、お話をうかがいました。

    • 伊藤 孝さん

      株式会社セールスフォース・ジャパン 専務執行役員
      コマーシャル営業統括、韓国リージョン統括 兼 ビジネスオペレーション統括

      伊藤 孝さん

      1985年4月日本アイ・ビー・エム入社後、米国本社勤務、アジアパシフィック担当等を経て、理事に就任。09年1月同社退職後、2月日本ヒューレット・パッカードにて、CFOを勤めた後、14年3月にセールスフォース・ドットコムに入社後、常務執行役員、経営企画、営業戦略担当に就任。現在は、コマーシャル営業統括、韓国リージョン統括、ビジネスオペレーション統括とともに、日本国内の社会貢献活動の責任者を務める。

    従業員の7割がボランティアに取り組む「1-1-1モデル」

    中村: 改めて、私たちNPO法人eboardの活動へのご理解・ご協力、本当にありがとうございます。最初に私たちの活動にご支援をいただいたのは、コロナ禍の「やさしい字幕」プロジェクト、私たちの映像授業に字幕をつけていく際に、従業員のみなさんにボランティアでご協力いただきました。

    本当に積極的に、スピード感を持って、多くの方にご参加いただいたのですが、改めて、セールスフォース社内でのボランティア活動の位置づけについて、教えていただけますか?

    伊藤: 元々、セールスフォースの共同創業者であるマーク・ベニオフが「ビジネスは社会を変えるための最良のプラットホームである」という考えを持っているんです。「ビジネスと社会貢献を両立する」ということが会社の軸、DNA、カルチャー(文化)として根付いています。

    それを会社の経営に組み込み具体化したものが、「1-1-1モデル」です。 これは、従業員の就業時間の1パーセントをボランティア活動に、株式の1パーセントを非営利団体への助成金に、さらに、製品の1パーセントを同じく非営利団体に対して無償、もしくは割引価格で提供し、社会に還元するというもので、創業当時から、グローバルで行っています。昨年は、日本でも7割近い従業員が、何らかのボランティア活動に取り組んでいます。



    伊藤: 例えば、3日間あるグローバルのミーティングに出席すると、最終日の半日は参加者全員によるボランティア活動があらかじめスケジュールされている。また、通常でも「今日の午後はチーム全員がボランティアで外出」というようなことも当たり前のようになっていて、チームビルディングとしてボランティア活動を活用しているチームもあります。ボランティアに参加することに後ろめたさを感じる必要はなく、普通にそういうことが当たり前として行われているカルチャーなんです。

    中村: 7割というのは、すごい数字ですよね。従業員ボランティアとなるとどうしても、少数の方が複数のボランティアに参加する、というイメージがありました。これはやはり、お話しいただいたような創業以来のカルチャーが背景にあるからでしょうか?

    伊藤: そうですね。私の前職でもボランティア制度はあったんですが、実際にボランティアに取り組んでいる人は一部でした。これは、文化的な要素もあると思うんですが、予算、お金や時間の部分も大きいのではと、思います。



    伊藤: いざ何か活動をしようと思うと、プロジェクト予算や時間がかかります。そこに全く予算がないと、従業員としてもボランティアを一緒にやってもらう団体の方としても、動きづらくなってしまう。「1-1-1」モデルでは、そこに予算をつけ、従業員も就業時間中にボランティア活動に従事することができるので、スムーズにボランティア活動に入ることができるという側面は大きいと思います。

    また、「利益が上がったので、その一部を非営利活動に」という、お金のみで支援する考え方だと、活動が止まってしまうことがある。ビジネスの調子が悪くなると、それに合わせて支援金もストップする、ということになりかねない。セールスフォースでは、それが創業以来の制度、文化として、ビジネスの状況に関係なく「いつでもやるものだ」ということが根付いているので、自然とボランティアに行こうという空気感があります。これは、私自身もこの会社に来てからすごく居心地がいいな、と感じた部分です。

    中村: なるほど。セールスフォースさんからは、非常に多くの方にボランティアにご参加いただき、合わせて、そこにかかる費用のご支援も緊急支援の寄付としていただいたのですが、そのおかげで躊躇せずに受け入れ態勢を取ることができました。それが制度としてできるのは、ボランティア参加を促す上で、とても重要だと思います。

    ボランティアに参加して感じた「やさしい字幕」の意義

    中村: 多くの団体の活動をご支援される中で「やさしい字幕」の取り組みを聞かれた時の印象を教えていただけますか?



    伊藤: お話した通り、これまでボランティア活動を盛んにやってきたのですが、コロナ禍で物理的なボランティア活動の多くができなくなってしまいました。ところが、社会貢献のチームが中心となり、従業員も協力して、オンラインでできる様々なボランティアを見つけてきてくれたんです。コロナ禍、オンラインで行ったボランティアは、緊急事態宣言発令から約1ヶ月で2,000時間以上に上りました。そのような状況の中で取り組んだ活動の1つが「やさしい字幕」プロジェクトでした。

    コロナ禍にオンラインでできるという点もありますが、私たちの会社のコアバリューの1つに「平等」があり、このプロジェクトがそのコアバリューに合致するという点も非常に魅力的でした。障害や言語など、様々な課題を抱えている人に、学びのチャンスを届けようという活動は、セールスフォースがグローバルで長年取り組む「教育」や「労働力開発」というテーマと非常に親和性が高いものだったんです。

    中村: 実際にボランティアにご参加いただいて、どうでしたか?

    伊藤: セールスフォースには、平等を促進することを目的とした従業員リソースグループが複数あります。その中の一つに、「Abilityforce(アビリティフォース)」という障害のある方や社会のあり方への理解を深めて、支援していこうというコミュニティがあるんですが、そうした活動を行っていても、本当の意味で理解することは難しい。例えば、目が見えない、耳が聞こえないという人のことを、我々がどのぐらい理解しているかというと、実際は本当に知らないことが多い。「こういうことをやってくれると助かる」とか、「こういうことをされると困る」といったことを、実際に見聞きしながら体験して初めて、わかっていく部分が多いと感じています。

    やさしい字幕のボランティアでは、実際に手を動かしてみて初めて、耳の聞こえない方に対する字幕の必要性や、どうすれば外国の方に分かりやすい日本語字幕が作れるかなど、想像できるようになると思います。素晴らしい活動だと思いますし、そのプロセスにボランティアが参加するという点も賛同して、我々も一緒に活動に参加させてもらいました。

    中村: ありがとうございます。ボランティアの方からフィードバックをいただく中で、身の回りの障害のある方や外国につながる方のこと、そうした方々を取り巻く課題に関心を持つようになったというフィードバックをいただくこともできました。

    私たち自身も、字幕を提供するようになって初めて見えてきた課題もありました。例えば、感覚過敏の子の中には、学校の騒音で聴覚が過敏に反応してしまって、学校にいけない、という子がいるんです。そういう子が、映像授業の音声をオフにして、字幕を見て学ぶというケースもでてきました。やってみて初めてわかることがある。ボランティアを通じて、その人たちの置かれている立場を想像できる体験の1つになるというのは、単純に参加していただく以上の価値があるんだろうなと思っています。

    ▲ やさしい字幕プロジェクトでは、ボランティアのご協力に加えて、字幕を利用する教育現場での実証事業をご支援いただき、現場での活用事例や利用者の声をまとめることができました。

    eDojo:支援する人を支援する取り組み

    中村: やさしい字幕でのボランティア、ご寄付でのご支援に続き、eDojo(イードウジョウ)という不登校支援をされてる先生や団体向けの研修プログラムにも、2年間に渡ってご支援をいただいています。こちらの取り組みについては、伊藤さんにはどのように映っていますか?

    伊藤: そうですね。不登校問題は、今まさに日本国内では非常に大きな社会課題の1つで、この分野では、他にも様々な支援をさせていただいています。

    eDojoは、支援が必要な子どもを支援する先生向けの取り組みです。教育分野全体、特に不登校のように環境的に恵まれない状況にある子を支援することは、人材やサポートの不足が叫ばれる中で、素晴らしい取り組みだと思います。それと同時に子どもの支援活動以上に「先生を支援する」という活動はスケールしづらいところもあるかと思いますが、ぜひ頑張ってもらいたいです。

    中村: こども家庭庁もできたことで、子ども支援全般について、政府や自治体にも課題意識が高まっていて、そこに予算をつけていこうという流れは出てきたと思うんですが、現場の先生や支援者の不足がボトルネックになってしまう、そこで止まってしまうことが、今後ますます増えてくると思うので、時間がかかる部分ではあるんですが、取り組まなければならないところだと思っています。子どもたちへの直接の支援に比べて分かりづらいところもあると思うのですが、その必要性をご理解いただいて、ご支援いただけてるのは、本当にありがたいです。

    伊藤: そうした活動は、やはり花開くまでは時間がかかりますが、うまくいけば、倍々でインパクトが増えてくる領域だとも思うので、応援しています。

    新しい技術は人の思いを形に変える「プラットフォーム」

    中村: 「1-1-1モデル」のうち、ボランティアや助成のお話をさせてもらいましたが、実はeboardには、セールスフォースの製品もご提供いただいています。eboardの教材、そして社内や他団体とのコミュニケーションにも、サービスを利用させていただいており、私たちの活動には、本当になくてはならないものです。「1-1-1モデル」の中で、製品を非営利団体に提供されることの意義は、どういったところにあるんでしょうか?


    ▲ ICT教材eboardの環境は、セールスフォース製品によりサポートされている。

    伊藤: そうですね。eboardさんには、従業員ボランティア・助成金・製品と、「1-1-1」のすべてをご活用いただいていて、「1-1-1モデルのモデル」のような活動ができていて、嬉しく思っています。

    製品の提供については、様々な思いを持って多くのNPOさんが活動されていますが、多くの場合、企業に比べると組織の規模も小さい中で、人手を補ったり、活動をスケールしていくためには、ITのソリューションが有効に活用できるケースは多いと思うんですね。これもまさに、お話しさせてもらった「ビジネスは社会を変えるための最良のプラットフォーム」という考え方に基づいて、活動を広げてもらうために、テクノロジー企業として我々が提供している製品がお役に立つところがあればという思いで、提供させてもらっています。

    ただ、無償でライセンス提供したからと言って、すぐに使いこなしてもらえる訳ではありません。そこもまさに「1-1-1モデル」で、我々の技術者が本業を活かしたボランティア活動を通して、活用支援をさせていただいたりしています。

    中村: 私たちのICT教材eboardや研修プログラムのeDojoも、ITサービスの分類になるので、活用支援の重要性を日々感じているところです。一方で、ここ数年、特にこの1,2年の生成系AIの進歩は凄まじいなと感じていて、それによる社会課題の解決の可能性を感じると同時に、こうした新しい技術が生まれていく時に、その恩恵を得られる人/得られない人というところで、新たな格差が生じてしまうのではという懸念もあります。

    セールスフォースでも生成系AI活用を進められていると思うのですが、こうした新しい技術の恩恵を得難い人をサポートすることの多い非営利セクターで、今後どのように活用していくといいと思われますか?

    伊藤: 非営利団体は、規模が小さくて、スケールしづらいような活動を現場で展開されていることが多いですよね。実は、生成系AIのような技術は、こうした領域にこそ、威力を発揮すると思うんですよ。



    伊藤: AIが想像を絶するスピードで進化する中で、小さな組織でやっていた事務作業や裏方の活動は、AIを使えば飛躍的に効率を高められるようになっていく。その効果は、人間が関わるべき本来の活動を進める上での大きな後押しになると思うんですよね。

    やりたいことが明確になっていれば、テクノロジーが後押しできる部分はどんどん増えていくと思うので、大きな可能性が広がっていると思います。

    中村: 技術が進歩してくると、ソリューションの発明や開発はどんどんできるようになってくるので、私たちNPOの役割は、それをその場にあった形にして、届きづらいところまで届けていくこと、そして、そこでの課題や声を拾っていくことになっていくのではと感じています。

    技術が今より進歩した未来に、NPOだからこそできる役割は何だと思われますか。

    伊藤: そうですね。様々な技術の登場によって、「今までできなかったことができる」ということが、今後どんどん増えていくと思っていて、そうすると支援する側も、大きく変わっていくのではと思います。今までは「自分には何もできない」とか「私には関係ない」と思っていた人が、高度な技術が身近にあることで、気軽に支援できるようになってくる。人を助けるということのハードルが、下がってくるんじゃないかと思うんです。

    従業員のボランティアの様子なんかを見ていると、「こういうことをやりたい」「社会のために何か力になりたい」という人って、実はたくさんいるんじゃないかと思います。実際に、新卒採用をしていると、収入や企業の規模ではなく、その会社の社会への貢献や、サステナビリティ、環境への配慮に対する考え方や取り組みに関心を持っている学生が増えているんですね。一方で、会社の言っていることに共感して いざ会社に入ってみると、そうした活動が実際はあまり活発ではなくがっかりしてしまうという話もよく聞きます。

    テクノロジーは、こうした人の「思い」を形にするプラットフォームになると思うので、NPOの方々とも一緒に活動しながら、それを実現していきたいと思いますね。私たちの製品を使っていただく企業もとても多いので、企業活動を通じて、営利・非営利を問わず、社会をよくするためのアクションをどんどん増やしていきたいです。

    テクノロジーによる社会課題解決で社会をよりよく

    中村: 最後に、10周年を迎えたNPO法人eboardに応援のメッセージをいただけるとありがたいです。

    伊藤我々の会社が大切にする価値観や信念と、非常に近いところで活動されているeboardさんには、とても共感しますので、 ぜひこの活動を、さらに発展させていただきたいと思っています。そのために、テクノロジーを活用して我々がご支援できる領域はまだまだあると思うので、今後もぜひコラボさせていただき、一緒に日本社会をよりよいものにしていきましょう。

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