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  • eboardとのタッグで出会えた「教師として最高の瞬間」 京都府立清明高等学校 山下大輔さん

    eboardは、様々な形で全国10,000カ所以上の学校・教育現場に提供されています。eboardを使う先生たちは、教材としてのICT教材eboard、組織としてのNPO法人eboardを どのように捉えているのでしょう。長年様々な背景を抱えた子が多く在籍する定時制高校で奮闘しながら、eboardを応援してくださっている山下先生にお話をお伺いしました。

    • 山下 大輔さん

      京都府立清明高等学校

       山下 大輔先生

      京都教育大学を卒業後、アパレル会社勤務を経て、2011年から京都府立鴨沂高等学校・夜間定時制で教員人生をスタート。京都府立清明高校では、開校の準備から携わり、2015年より同校に勤務。教諭・生徒支援部長。

    学び直しの時間で見えてきた「自分で学ぶ」ことの難しさ

    中村:清明高校も来年で開校から10年とうかがっています。改めて、清明高校が設立された背景について、聞かせてもらえますか?

    山下:清明高校は、昼間の定時制高校なんです。昔は定時制というと夜間が主流で、働きながら高校で学んで卒業資格を取るというような、いわゆる「勤労学生」が多かったんです。それがだんだん変わってきて、例えば、不登校経験者であったりとか、発達障害であったりとか、「中学で全く勉強についていけなくて、行ける高校がない」みたいな子たちが、最終手段として、夜間定時制に行くようになっていました

    でも、その子たちって、別に昼間に学校に行けるんですよね。なのに、なんでわざわざ夜に学校に行かないといけないのかと。そういう流れで、昼間定時制の清明高校ができたんです。



    中村:開校1年目の途中から、学び直しの「アンダンテ学習」の時間で eboardを使ってもらうようになったと思うんですが、あれは、学校独自の設定科目としてされていたんですよね。

    山下:はい。不登校を含めて多様な背景の子がいて、そもそも学習経験が少なかったり、つまずきの箇所もそれぞれ違っていたので、しっかりと自分のペースで学習できる時間を取ろうということになりました。

    ただ、開校当初は、具体的にどんな授業になるのかイメージが、全くない状態でした。1人1台タブレットという、当時では最先端のICT環境を使って学び直しができないか、というアイデアくらいで。放課後の学習支援を見聞きする中で、eboardを使うイメージは持てたんですが、授業の中で、一斉に1人1台で学び直しをやるなんて、当時は全く考えられない状態でした。

    中村:そうでしたね。1年目の途中から、アンダンテ学習の時間に入らせてもらうようになりましたが、年度当初は大変でしたよね。

    山下:そうですね。そもそも「自分で学ぶ」っていうことが、どうすれば実現するのか、全くわかってなかったので。最初は、生徒が数ある教材の中から、教科も単元も好きに選んで、好き勝手にやっていたんです。けど、これまで学習の経験や習慣が少なかった子たちは、学習する内容を自分自身ではなかなか選べないんですよね。当然、丸々1時間、自分で勉強するっていうような経験もない。高校に入る前は「学び直したい」気持ちがあっても、そもそも勉強が好きとか、楽しいという感覚がないので。次第にやっぱり勉強が嫌になっていく。面白くない。そういったことが、全部授業の中で表に出てきた感じでした。

    かといって、教員もどう支援すればいいのか、わからなかったんですよね。自分の担当以外の教科は、なかなか教えられないですし、今までやってきた授業とは全く違う形態なので。お互いにしんどかったんじゃないかなって思います。生徒たちはどんどん「この時間何すんの?」みたいになっていく。疲れるし、おもんないし、 寝始めるみたいな感じで。最終的には、他の授業の宿題をし出すという。それも「自学自習」って言ってる手前、教員は「宿題やったらあかん」とも言えず。「自分で学ぶ」と言っても、なにが良くて、なにがあかんという基準がなかった状態でした。

    一人ひとりの「学びのサイクル」を回す

    中村:そこで、1年目の後期から、eboardの教材だけでなく、私や大学生ボランティアもサポーターとして授業に入りながら、形をつくっていくことになったと記憶しています。

    山下:そうですね。eboardさんからのサポートも受けて、2〜3年かけて、少しずつ枠組みができていきました。まず一旦は、アンダンテ学習では「eboardを使おう」ということを決めたんです。宿題とかじゃなくて「学び直しの時間やで」と伝え直す。その中で、自分がやりたい教科と単元を選んで学習するっていうところからスタートしました。そうすると、eboardに学習履歴が残っていくので、次回はその続きから学習をスタートするような形で、ある程度、生徒自身で学習を進められるようになりました。やっぱり、動画の解説があるというのは、大きかったですね。



    山下:けど、だんだんとその日の気分でランダムに教科や単元を選んだり、楽な方にだんだん流れていくんですよね。社会や理科の動画ってやっぱり面白いので、自分の好きなところをぼーっと動画見てるだけで、時間が過ぎていくみたいな。確かに学び直しにはなってるけど、本来、高校の授業でも基礎が必要になる、英語や数学、場合によっては 算数からですけど、そのあたりをメインにやってほしかったんですよ。

    そこで、次のステップとして、英数の先生とも連携しながら、今授業でやってる内容や次の定期テストの範囲なんかを見せてもらいながら、そこにつながる中学校の単元を、こちらが提示するようにしたんですよね。そうすると、少しずつ生徒のモチベーションも上がって、英数に取り組む子がちょっとずつ増えていきました。

    中村:「ふりかえりシート」をつくったのも、この時期だったと思うんですが、あの存在は大きかったですよね。



    山下:そうですね。ふりかえりシートによって、授業の枠ができて、メリハリができたんですよね。最初に目標を決めて、学習する内容を決めて、学習をはじめる。学習後は、学習してできたこと/できなかったことを、それぞれふりかえりシートに書いてアウトプットする。

    教員やボランティアの人たちの大切さがわかってきたのも、この時期でした。当時は、eboardから学生ボランティアが来てくれてたんですけど、休み時間から来てくれて、生徒と話してくれてたんですよね。そうすると、その流れというか、関係性の中で、サポートに入れるんですよね。

    ふりかえりシートを書いてもらうことで、2〜3人で20人くらいの生徒を見て回っていても、介入のポイントがわかるようになりました。授業の始めは、目標設定が難しい子に付いて、まずはスタートしてもらう。みんな大体スタートできたら、学習方法を看取って、タイミングを見てフィードバックする。eboardがあったので、教える場面は少なくて、その子が学習を進めるのをサポートする感じでしたね。最後は、ふりかえりのタイミングで、一緒にできたことを確認する。1年目の終わりから2年目にかけて、そんな学習のサイクルが回り始めた感じがありましたね。

    「できて嬉しい」「できなくて悔しい」が積み重なる時間

    中村:いやぁ。思い出してきました。私も1、2年目はサポートに入らせてもらってましたが、汗かきながら机の間を回って、モグラ叩きっていうと語弊がありそうですが、その子その子のタイミングを見計らって、働きかけをしてたのを覚えてます。そうすると授業の回を重ねるごとに自分で学べる子が増えていく、そんな感じでしたね。
    いろんな子がいたと思うんですが、アンダンテ学習をとっていた子の中でも、印象的な子っていますか。この子変わったなとか、大変だったなとか、面白かったなとか。

    山下:そうですね。ほんとに、いわゆる生徒指導上の課題がある女の子がいたんですよ。学習意欲もなけりゃ、学習方法もわからん。ちゃんと落ち着いて勉強するっていう経験をしてきてない。ちょっと目を離したら、寝て、だらーんって机に突っ伏して。じっくり動画を見ることなんかが、すごい苦手やったんで、最初はどんどん問題を解かせてたんですよね。

    ノートを書いてコツコツ勉強っていうのが、とにかく苦手だったので、eboardの答えを選択して、ボタン押すだけでいいっていう、サクサク進められるのがその子にはすごく合ってて。最後まとめのチェックテストで100点取った時には、「先生見て!見て!」って、めちゃくちゃはしゃいで(笑)。



    山下:そうやって進めていくと、当然わからんところも出てくるんですよね。そうしたら、「じゃあ、次はここわからなかったから、動画見ようね」って働きかけていくと、頑張って(動画を)見るようになって。「じゃあ、今度は動画で大事やなって思うところ、ノートに書いて見たら」というふうに、ちょっとずつステップを踏んでいったら、作業は早い子ではあったので、めちゃくちゃ復習が進んだんですね。最初はできそうにない子も、足場をかけて働きかけてあげると、段々モチベーションもついてきて、できるようになってくる。

    これは本当に、eboardという教材はもちろん、ふりかえりシートとかアンダンテ学習の枠組みがあったからこそ、できたなと。あと一番は、やっぱり人の支援。これらがないと、成り立たなかったと思いますね。あの子の変化は、教師として最高に嬉しかったし、自分も面白かったです。

    あと同じ頃だったと思うんですが、ステップアップテスト(※)で泣き出しちゃった子がいたんですよね。「私、こんなにやったのに」って。 アンダンテ学習で、自分としては一生懸命取り組んだのに、思うほど点数が伸びなくて、できなかったことへの悔しさがあって。
    ※ ステップアップテスト:eboardが教育現場に提供している、その子の学習の診断状況を大まかに把握することができるテスト。

    中村:いや、すごい思いを持って、取り組んでたんですね。

    山下:4年目の頃かな。だから、ステップアップテストへの取り組み方とかも、みんな真剣にやっていて、学び直しをしてるなっていう感じでしたね。みんな個別で自分の学習をやってるんだけど、一体感があるっていう、変な感じ。最初の目標共有と、最後のふりかえりを一緒にするだけで、あとは誰もしゃべってないんですよ。でもなんか、1つのチームみたいになったんです。僕はアンダンテ学習の担当教員を4年ぐらいやったんですけど、あのクラスはすごかったなぁ。 あんなふうに学習できたら、そりゃ伸びるやろって感じでした。



    ▲アンダンテ学習受講生徒の事前・事後(前期終了時)アンケート

    中村:学び直し、自学自習でそこまでって、すごいですよね。

    山下:そうなんですよね。あの講座は、人数比がちょうどよくて、僕とボランティアの子1人で、生徒は10人ぐらいだったんですよね。支援者2人が全員とコミュニケーション取れて、どの子がどんなふうにやってるかが、みんなだいたい分かるっていう、ちょうどいい人数で。

    生徒同士の雰囲気も良かったから、わからないところがでてきたら、聞いて教え合えるような環境もあって。その頃アンダンテ学習の視察がいっぱいあったんですけど、誇らしげに見せてました。 いや、本当、みんな真剣にやってましたからね。

    試行錯誤して、学びのサイクルを回していく力は、一生もん

    中村:アンダンテ学習の特徴として、担当の先生の他に、学生ボランティアの方が1〜2人入る仕組みにしましたよね。学校の授業で、このような形で支援者がいるというのは、大きな特徴だと思うのですが、個別の学習をしていく上で、そういう人の役割ってどういうところにあると思いますか?

    山下:そうですね。家でもそうだと思うんですけど、やっぱり「自分で学ぶ」って孤独なんですよね。わからないことがあったり、自分がやってるのが正しいのかどうかとか、1人で勉強してる時って、いろんな悩みとか不安が出てくるんです。その不安な気持ちって1人では外に出せないので、しんどくなっちゃったりとか、続けられなくなってしまったりする。そこに人が入って、やる気とか不安とか、そういう気持ちの部分をサポートしてくれると、なんか、1回1回リセットされるっていうか、解消されていくというか。「これでいいんだ」って納得ができたりとか、アドバイスをもらうことで切り替えができる。

    アンダンテ学習でも、モチベーションのサポートがすごく大事だったので。勉強を教えてくれる人というよりも、一緒にやってくれる仲間みたいな意味合いの方が強かったかもしれないですね。伴走してくれる人がいるっていうことの大事さは、すごく感じますね。一斉授業や家での学習とは、劇的に違うところなんですよね。

    中村:学習内容はみんな違うけど、自分の学習をしっかり学んでいく時間、ですね。「自分で学ぶサイクル」が、みんながいるからこそ回り出すという感じ。

    自分で学ぶサイクルって、もちろん1人でできる子もいるんですが、別に清明の子に限らず多くの子はできないので、残念ながら。それを小・中学校の段階で、あまりやってないんですよね。決められたやり方で、決められたことをやることはできる。多分それをやるのは、日本の子は得意なんですけど、いざそれを「自分だけで回してみなよ」って言われると、難しい。だから「学び直しの学習してね」っていきなり言われても難しい。それこそ、初期のアンダンテ学習みたいになっちゃうのもわかる。

    山下:そう、そう。そうなんですよ。

    中村:だからやっぱり、そこのサイクルを回り始めるまでは、サポートしてあげないといけないですね。

    ▲ 授業の後は、担当教員と学生ボランティアで、生徒のふりかえりシートへのコメントや全体のふりかえりを重ねていきました。

    山下:そうなんです。これ、ほんとに伝えるのが難しいんですけど、でも、自分で試行錯誤して、学びのサイクルを回していく力っていうのは、一生もんじゃないですか。自己調整学習の話とか、eboardさんから学んだものを僕も教員研修で伝えたりしてるんですけど、やっぱりこの力はつけてあげたいなっていうのは、すごく思っていますね。

    アンダンテ学習を経験した子たちは、もちろん学び直しもしていたんですが、そういった自分でサイクルを回していくって経験をしたっていうのが、社会に出てからも役立つ力になるんだろうなって思うんですよ。

    1人1台が普及した今だからこそ、大切になる人との関わり

    中村:それで言うと、GIGAスクール以降、個別最適化とか、自由進度学習とか、そういうことが言われるようになってきたので、いろんな学校でも初期のアンダンテ学習のようなことが起こっていると思うんですよね。これから1人1台の環境で、どんな教育を目指したら良いんだろうって思っている先生方に、1人1台環境でずっと授業をされてきた山下先生から、伝えたいことってありますか?

    山下:いや、もう本当に端末はツールなんで。AIやタブレットに任せて、何かが劇的に変わるなんてこと、やっぱないんじゃないかなって思いますね。やっぱりいちばん大事なのは、人。やっぱり人は、人との関わりの中でしか成長しないなって思います。

    中村:ツールだけで、どんどんできる子は、できるんですけどね。

    山下:そうです、できる子はできます。でも多分そのできる子って、その前の段階で人のサポート、関わりとかをね、ちゃんともらってると思う。

    中村:そうですね。それで言うと、小中学校で、結構大変な経験や思いをしてきた子が、清明高校に来るみたいなところがありますよね。eboard使ってる学校って、圧倒的に小中学校の先生が多いんですが、 「こういうところで困った経験してる子がいるんです」とか、お伝えできることがあれば教えてほしいです。



    山下:みんながみんなじゃないと思うんですけど、スタートの部分でつまづいて、勉強が分からなくて、荒れたりとか、問題行動とかにつながってる子っていうのが、やっぱり圧倒的に多い。 授業で、立ち歩いちゃう、寝ちゃう、内職しちゃうとか、うちでもそうなんですけど、シンプルに勉強がわからないから。

    わかってないんだから、その子たちにとっては、教室にいる意味がないんですよね。 小学校、下手したら6年間、プラス中学校で9年間、ぜんぜんわかんないのに教室に机に縛り付けられることの辛さっていうのは、 多分相当なものだったんだろうなって、生徒と話してて思うんですよね。

    なので、授業についていけない子を、やっぱ置いていってほしくないなっていうのはすごく思うんですよね。どうしても、学習指導要領でやらないといけない。年間の指導内容があって、やりきらなきゃいけないっていうのは当然わかるんですけど、じゃあ、そこについて来れる子がどれだけいるんだろうとか、 その単元でどれぐらいの子が本当に理解してるんだろうとか。

    理解してない子をどうサポートするんだというのはすごく難しいと思うんですけど、教員として忘れちゃいけない視点なんだって思います。 先生一人で全てを背負い込むことはできないので、まさに自学自習のような、自分のペースで学べる時間っていうのが必要になってくるんじゃないかなって思うんですよね。

    中村:その通りですね。1人1台で、先生の「教える」部分はかなりアップデートされてきたかなと思うんですけど、アンダンテ学習のように、自分の学びを形作っていける時間が、もっと増えてくるといいなと思います。それでは、最後になりましたが、応援メッセージとして、10年目を迎えたeboardに期待することを、教えていただければと思います。

    山下:これまでオンラインでの学習支援ツール、サイトはたくさん見てきましたが、eboardほど、子ども目線、現場目線で熱い思いを持って取り組んでいるところはない、と強く思っています。

    もちろん、それはどんどん進めていただくと共に、学びをあきらめない子どもたちが、学びのサイクルを獲得して、社会に出ていけるようなサポートというのを、ぜひ、eboardさんにしていただけたらなって思います。そういうノウハウ自体がない人がほとんどだと思うんで、そういう意味で、自己調整学習や自律学習のノウハウというか、考え方が本来の意味で全国に広がれば、このGIGAスクールの環境というのが、絶対に生きてくる。それができるようになると思うと、ワクワクしますね。

    eboardの「学びをあきらめない」という思いが、日本の教育現場にもっともっと浸透していくことを願っています。

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