時に「NPOらしくない」とも言われる、eboardの活動。「なぜ株式会社でやらないの?」という声をいただくことも。ICT教材eboardというプロダクト(製品)を、自らつくり、届ける活動は、非営利団体の中でも珍しいものです。長年ビジネスセクターからNPO支援に携わられているレイモンド・ウォングさんに、ソーシャルセクター(NPO業界)におけるeboardの活動の特異性、そしてその活動を応援する意義についてうかがいました。
一般財団法人R&P未来多様性財団 理事
レイモンド・ウォングさん
中村:レイモンドさんとの出会いは、2017年のFIT(Financial Industry in Tokyo)チャリティ・ランでしたね。その後も2020年からの「やさしい字幕プロジェクト」では、企業ボランティアの旗振り役として、eboardをサポートしていただきました。マンスリーサポーターとしても、eboardの活動を応援していただいています。いつも応援ありがとうございます。
まずは、eboardとのつながりも含め、レイモンドさんのソーシャルセクターとの関わりについて、お話を聞かせてもらえないでしょうか。
レイモンド:私がeboardを知ったのは、2017年の「FITチャリティ・ラン(※)」という取り組みで、金融サービス業界で働く仲間で運営しています。元々は、2005年にあったインドネシアの災害支援のために、金融業界で働く人たちが、企業の垣根を越えてファンドレイジング(資金集め)したことが始まりです。
※ FITチャリティ・ランのホームページ:http://fitforcharity.org/ja/about.html
そこから「毎年こういう活動を続けたいね」ということになり、毎年社会的に意義のある活動をされている非営利団体を支援先として採択させていただいて、開催しています。これまでにご支援させていただいた団体は100団体を超え、寄付総額も10億円と、継続する中でしっかりと実績を残すことが できてきました。
▲ チャリティランでは、代表の中村をはじめ、eboardメンバーも参加させていただきました。
レイモンド:当時、私はウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo & Company)という、アメリカの金融機関の日本の証券子会社で代表取締役をしていました。そこで、FITをはじめとして、企業の社会貢献活動の中で、人がどうやって繋がっていくのか、どうやって社会貢献活動に対してのリソース(資源)を引っ張ってこれるのか。そういったことをビジネスの立場から考えながら、いろいろな非営利団体と関わりを持たせていただきました。
中村:FIT で毎年たくさんの団体が 採択されている中で、eboardの最初の印象はどうでしたか?
レイモンド:正直、最初は表面的な情報しかなかったので「面白いことやってるな」「活動のテーマに共感するな」くらいに思っていました。その後、採択団体にインタビューすることになり、eboardのインタビューを私が担当させてもらいました。しっかりお話させていただいた時に、これだけのサービスを無料で提供するのは、とても可能性のある取り組みだと思いました。一方で、NPOとしてはあまり類のないこの活動をどうすれば継続的に運営できるだろう?と思い、応援できることがあれば、何か力になりたいなと感じるようになりました。
中村:ITのプロダクト(製品)・サービスを、自分たちでつくって、しかもそれを無料で提供するというのは、NPOとしては、とても珍しい活動だなと自分達でも思います。
レイモンド:そうですね。やはりNPO団体というと、地域に根付いて、現場を構えて活動している団体がほとんど。教育分野でいえば、そこで学習支援や不登校支援に取り組む。もちろんそれも必要なんですけど、地方であったり、さまざまな理由からその支援にたどり着けない、そういう場所に行けない方々もいるわけで。
そんな中で、オンラインで無料で学べるっていうのは、6,7年前は「とがっているな」っていう印象でした。今はもうコロナ禍を経て、オンライン学習は当たり前になってきてますけど、それ以前からそこに取り組んでいたというのは、本当に稀有な存在ですね。
中村:そんな中で、もう一度本格的にご一緒させていただくことになったのは、まさにコロナのタイミングでしたね。全国一斉休校になった際に、私たちが「やさしい字幕」プロジェクトを始めたタイミングで、レイモンドさんにご相談させていただいて。FITご参加企業の皆さんにも声をかけていただき、企業ボランティアの「旗振り役」を担っていただきました。
やさしい字幕プロジェクトのことを最初にお話させて頂いたとき、どんな印象だったんでしょう?
レイモンド:たまたま、聴覚障害に関わる団体のファンドレイジングも長い間手伝っていたので、そのあたりの課題や親御さんの抱えてる困りごとが想像できたんですね。外国につながる子を支援する「多文化共生センター」の活動も応援していたので、「字幕だったら、確かに色々できるんじゃないか」ってピンと来たんですね。そうした領域で、新しいものをつくらずとも、今のeboardを補強することで、できることがあるなと。
同時に、企業が取り組んでいたボランティア活動がなくなることも、私に限らず、多くの金融機関が危惧していました。コロナ禍で、Stay home(リモートワーク)という環境下だから、ボランティアも止まってしまうんじゃないかって。そんな中で、やさしい字幕のボランティアは、リモートワークの環境でもできると思ったんです。コロナ禍で大変な時だからこそ、多くの人が「誰かの役に立ちたい」って思っていましたし。
中村:最初、私には、字幕をつくる上でボランティアの発想はなかったんですね。人件費や管理費を計算すると、eboardの動画に「やさしい字幕」をつけるためには、3,000万円ほどの予算が必要で、それを集めようと必死でした。そこで、レイモンドさんに、このプロジェクトのファンドレイズ(資金集め)のご相談をさせていただいて。eboardの年間予算の規模が、その前の年で全体で2,000万円ぐらいだったので、予算面だけで見れば、団体の規模を超える大きなチャレンジでした。
お話しする中で、ボランティアができなくて困っている企業が多いから、3,000万円のうちいくら分かは、ボランティアでまかなえるんじゃないか?と、レイモンドさんからアイデアをいただきました。工程を整理すると、作業の2/3くらいはボランティアでやってもらえそうだということになって。それでもまだ、1,000人以上のボランティアを集める必要があったので、お金にしろ、ボランティアにしろ、立ち上げ当時は「前途多難」という感じではあったんですが。
ただ、「ボランティアを集める」という方向でも動き始めたことで、プロジェクトが前に進み出しました。「やさしい字幕」を進める上で、これはとても重要なポイントだったと思います。ウェルズ・ファーゴさんには、その中でも1番最初に企業ボランティアとして参加していただきました。
レイモンド:かなり早い時間軸、短い期間でのプロジェクトを想定されてましたよね。ファンドレイジングは、どの会社も承認を取るのに結構時間がかかってしまうので、その時間軸でやるなら、人件費分のボランティアの方が集められそうだと思ったんですよね。社内で話してみたら「やってみましょう」と社員も言ってくれて。そこから、FITの参加企業を中心に、他の金融機関に投げてみたら いい反応をもらえたところもあり、動き出した感がありましたね。
中村:最終的に、やさしい字幕プロジェクトでは、個人と企業の方合わせて、1,000名以上のボランティアにご協力いただいたんですが、個人ボランティアの方は当初ほとんど集まらない状況でした。当然私は「このプロジェクトをやり切ろう」という思いでいたんですが、約2,000本という映像授業の数に「これ本当に終わるのかな」っていう気持ちも、団体内では生まれてきつつあったんです。
そのタイミングで、ウェルズ・ファーゴさんを皮切りに、企業ボランティアとして、多くの方に参加していただけることになって。私たちにとっては、追い風になり、これだけの人が応援してくれているのだから「あきらめずにやっていこう」と、気持ちを新たにできました。
レイモンド:実際ボランティアとして関わったことで、大人になってから動画授業を見ていると「そうやって教えているのか」っていうのがわかったり、学びに困難をかかえる子に対して「こういうふうに表現したらいいのか」と考える機会をもらいました。そうやって、実際に手を動かして関わらせてもらう中で、改めてeboardの活動のもたらすインパクトや必要性を痛感させられましたね。端末があれば「いつでも、どこでも学べる」というeboardの活動の価値を、身をもって体感することができたなと思います。
中村:ありがとうございます。在宅で自分のペースでできるとはいえ、お一人あたり4〜5時間ほど時間をとっていただく作業でしたが「やってよかった」という声をたくさんいただきました。特に、実際に作業してもらった字幕がインターネット上に形あるものとして残り、永続的に利用できる教育資産になっていくというところに、やりがいを感じていただけたようです。
中村:レイモンドさんには、「やさしい字幕」プロジェクト以降も、定期的にアドバイスをいただくなど、さらに一歩、eboardに深く踏み込んで関わっていただいていますが、eboardに関わるにつれて、気持ちの変化などはありましたか。
レイモンド:元々、外国ルーツの子の教育課題については関心があったので、そのあたりの関心領域が重なったというのもあったのですが、特にやさしい字幕プロジェクトに関わったことで、自分の中でeboardを応援する意義が高まったと思います。教育は、すぐに結果が出るわけではなくて、子どもたちが大人になってからようやく結果に現れるものだと思っているので、長期的に続ける必要がある。持続的に応援していきたいなと思っています。
あとは、正直eboardの活動は、構造的に寄付や助成金が取りづらいな、というのが見えてきました。個人的にも応援したいし、とてもインパクトのある、社会に必要な活動だと思っているので、「もっと力になりたいな」と思うようになりました。
中村:ありがとうございます。NPOとしては少し変わった活動だと、自分たちも自覚しています(笑)。eboardの特異性というか、わかりづらい、伝わりづらい部分ってあると思うのですが、いろいろなNPOをサポートされてきた中で、レイモンドさんにとってeboardを応援する意義は、どういうところにありますか。
レイモンド:大きく2つあるのですが、1つ目は、eboardは、教育に関わる色んな方々の活動をエンパワーメントできるツールになるんですよね。学校の先生、塾の先生、他のNPOの方々、使い方によっていろんな方々の活動を支えられることが、強みというか、圧倒的にすごいところ。もちろん、当事者である子どもたちや、親御さんたちにも直接届けられている。その応用力というか、eboard「が」直接なにかをやるのではなく、全国の教育に関わる現場や先生、学習者、さらには保護者の方にとっても、それぞれの活動がeboard「で」エンパワーメントされるというところが、すごいですね。
レイモンド:そこに「やさしい字幕」がついたことによって、聴覚障害もそうですし、外国ルーツの子どもたち、様々な理由で学習にアクセスしづらかった子も使えるようになった。より多様な課題に寄与できるツールに進化しましたね。
もう1つは、これは私が勝手にeboardに期待している部分なのですが、学びに困難を抱える子のデータ収集が、社会課題の解決につながるんじゃないかということ。社会的課題の分析には、たくさんのデータが必要になります。教育問題は、すでに「見えている問題」と「見えていない問題」があると思っていて、見えてない部分を、eboardを使ってくれる方が増えることによって、見える化されて、それが、よりよい制度設計につながったりするんじゃないかと、個人的に期待しています。
中村:レイモンドさんをはじめ、多くの方のご支援で、eboardも10周年を迎えることができました。社会貢献やNPOとの連携を考えられている企業の方に、ぜひ、eboardの魅力を伝えていただけると嬉しいです!
レイモンド:そうですね。まずは企業の方に限らず、社会に対して、たくさんの人にeboardの活動を知ってもらいたいです。eboardがあることによって、様々な課題を抱えた子がたくさん救われています。使う・使わないはともかく、eboardというツール、手立てがあるということをもっと伝えてほしい。知ってほしいです。
企業で社会貢献に取り組まれている方にも、もっともっとeboardのことを知ってもらいたい。どの会社でも、社会貢献やSDGsへの取り組みの中で「未来への投資」のような文脈が出くると思うのですが、eboardが取り組む課題と活動領域は、どの会社の社会貢献やSDGsの領域にも当てはまるはずです。社員の方でも、例えばお子さんが不登校だとか、障害があるとか、まさにその課題を抱えてる方がいるかもしれない。
「なぜeboardが、テクノロジーを活用した、この方法で課題解決に挑むのか」そこを知ってもらえると、eboardの持つ価値や可能性を理解していただけると思います。そこで共感してもられば、まずは寄付でもいいですし、いろんな応援の仕方があるので、ITや会計周りなどのプロボノのような形でも、ぜひ、応援していただきたいなと思います!
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