eboardの活動をふりかえる時、教育ICT分野で事業を展開する企業の方々を抜きには語れません。そんなビジネスとして教育に関わる方の中にも、公私にわたり、eboardを支えてくれる人がいました。今では業界のトップランナーでもあるお二人と共に、日本における教育ICT、そして、その中でのeboardの役割について語ります。
NTTコミュニケーションズ株式会社
スマートエデュケーション推進室担当部長
稲田 友さん
株式会社コードタクト代表取締役
後藤 正樹さん
中村:お二人とお会いしたのも、もう9年くらい前になるので、その頃からふりかえっていきたいなと思います。たしか、後藤さんの方が先にお会いしましたよね?
後藤:そうですね。僕は、1番最初はeboardがeラーニングアワードを受賞した時(2014年)だったと思います。法人化して1年も経たず賞をとったってことで、立派な活動をしている、ちゃんとした団体なんだという印象でしたね。でも、後で知ったんですが、もっと前の2011年にtwitterで相互フォローしていました(笑)。
▲ eラーニングアワードでのパネルディスカッション。右から2番目が中村。左から2番目が小金井市立前原小学校で校長をされていた松田先生。
稲田:僕は(eboardとのつながりは)「先導(先導的教育システム実証事業)」からですね。当時、小金井市の前原小学校で校長をされていた松田先生から「めっちゃ面白そうな会社(後の株式会社コードタクト)がある」って紹介してもらったのと、同じ時期くらいにeboardも「日本版のカーンアカデミーがある」って紹介してもらいましたね。これは(実証事業に)参加してもらった方がいいんじゃないかって。
中村:稲田さんのeboardの印象は、どうでした?
稲田:僕はもっとなんか下世話で。事業のプロジェクトマネジャーとして、バランス取らなきゃいけない中、大企業入れて、小さい企業入れて、スタートアップでコードタクト入れて、NPOでeboard入れてみたいな。ぶっちゃけ最初は、それくらいのノリでしたね(笑)。
中村:いいっすね。稲田さんらしい(笑)。そこから「先導」を経て、今の「まなびポケット(※)」の前身ができましたよね。「教育クラウドプラットフォーム」でしたっけ。
※ まなびポケット:NTTコミュニケーションズが提供する教育クラウドサービス。現在は、学習eポータルとしての機能も持ち、申し込みID数は540万を超える(2023年12月時点)。
でも今思うと、あの実証はすごかったですよね。GIGAスクールを経て、今になって広く議論されるようになったことを、あの時点で結構議論してましたよね。
稲田:そうそう。だから、ちょうど1人1台の環境をベースにしてクラウドでやろうっていうのは、そのまんまなんだよね。だから、今ふりかえってみると、非常に意味があったと思います。当時は「1人1台」ってことだけがすごく注目されていて、「クラウド」って言っても全然意味や価値が伝わらない感じだったけど。「クラウドだと何が違うの?」っていう感じ。
後藤:そうですね、2014年とか15年だと、まだオンプレ(※)全盛期ですよね。
※ オンプレ(オンプレミスのこと):ITサービスの提供に必要となるサーバーやソフトウェアなどを、自前で保有し運用する形態のこと。
中村:そもそも先導の事業って、どういう文脈で出てきたんでしたっけ?
▲ 先導的教育システム実証事業のイメージ図。GIGAスクールのイメージと重なるところも。
稲田:将来1人1台を目指そうとした時に「全体コストがかかりすぎる」っていう議論があって。オンプレ前提だと、システムを運用するためのオペレーションやアプリケーションのコスト、(配布される端末の)マシンパワーも大きくせざるをえないという話があって。 コストをちゃんと抑えた状態で考えていかないと、とても全国展開できないよね、という話でした。
中村:1人1台で、端末とネットワークとアプリケーション、そこに運用コストを加えて「1台当たりいくらになるか?」みたいな積算、めちゃくちゃやってましたね。後藤さんにとって、先導はどうだったんですか?
後藤:僕が参加した実証で、最も意義があったと思いますね。最初は、スクールタクト(コードタクト社が提供する授業支援クラウドサービス)を、eboardと同じく、1プロバイダーとして提供するっていうことだけだったんですけど、いつの間にか、教育クラウドプラットフォーム自体の開発もお手伝いするようになって。
会社を立ち上げたばっかりで、当時、まだ社員は僕も入れて3人、全員エンジニア。その内の2人でスクールタクトとプラットフォームの開発をしてたので、めちゃくちゃしんどかったですね。でもそこで、今の「まなびポケット」の原型ができていった感じですね。
中村:「先導」の後も一緒に色々お仕事するようになったり、飲みに行ったり、お互いに壁打ち(相談してアドバイスなどをもらう)したりしてきたと思うんですけど、 eboardの印象がダメだったら、もう「使えない」ってなるじゃないですか。その点、どういう印象でしたか。
稲田:また下世話な話をするけど、プラットフォームに提供していたコンテンツの事業者が15社あった中で、eboardは、いつも3番目か4番目ぐらいに活用されてたんです。スクールタクトが1番。
一方で、企業の中には、アプリケーションを開発して提供するのに、それこそ億単位のお金かけて、すごい体制でやっている人たちがたくさんいたんですね。一方で、eboardやスクールタクトは、全然違うスタンスでやっていて、でも現場に受け入れられてるっていう。スクールタクトやeboardは、見てるものが違うなっていう印象でした。やっぱりそれが結果に現れてきて、現場で選ばれる文脈も違うんだなと。あくまで数字を見て判断してましたね。
中村:なるほど。後藤さんは?
後藤:中村さん、当時は本当にずっと1人で動画コンテンツとシステムの両方を作られていたじゃないですか。そういう1人で作り続ける覚悟っていうところが、やっぱりすごいなと思ったんですよね。最初僕も1人で作ったんだけど、僕はシステムだけなんですよ。それに対して、中村さんはコンテンツも作ってますからね。
▲ 授業支援システム「スクールタクト」。先導的教育システム実証事業では、eboardとのコンテンツや学習データの連携に関する実証も行った。
後藤:あと1番印象に残ってるのは、先導にも参加してもらっていた京都の定時制の清明高校。一緒に取り組みをやってたじゃないですか。 そこで、不登校経験とか、さまざまな背景がある子に対して、eboardがどういう支援をしてるのかっていうのを、すごく間近で見ていたので。それをトータルで、コンテンツやシステム、活用モデルをつくったりとか、実際の現場で本当にワンストップで全部見ているところに、すごく共感しましたね。
自分もそれまで教育には関わってきましたけど、eboardが向き合う現場の取り組みは、衝撃だったんですよね。そもそも、本当に勉強の仕方がわかんないっていう子とか。それまで確かに僕、そういう子見てなかったから。
中村:後藤さんでも、そうだったんですね。
後藤:いや、普通の学校現場では、あんまりいないですよ。eboardが力を入れて関わってる現場は特殊。僕は元々予備校の講師だったりとか、 私立高校の数学教師だったので、そういう子は当然いないし。そういうeboardが関わる現場での経験って、 今自分が大事にしたいと思っている「多様性がある学び」みたいなものの、原体験になってますね。
中村:そうなんですね。いや、なんか嬉しいな。
稲田:でも、僕と同じように思ってた人いるんじゃないかなと思うんですけど、最初の頃は、eboardはあんまりいいコンテンツに見えなかったんですよね。 勘が働いてなかったなって。みんなやっぱり「教員が指導で使うコンテンツ」にずっと慣れてて、 導入したり、使ったりとかっていう話をしていて、結局議論してる内容とかも、ずっとそこに縛られてるんですよね。最初、僕には(eboardは)荒削りなコンテンツで、先生が使いづらいコンテンツに見えたんですよ。だから、現場は受け入れないだろうなって。まぁでも、数字で見ると違ったっていう。
中村:いや、でもそうでしたよ。学校現場、特に教育委員会の方はそうでした。最近になってやっと、子ども主体というか「先生が、教育で指導でどう使うか?」じゃなく、「子どもが、学習でどう使うか?」という観点で、見てもらえるようになってきました。
稲田:大人が「授業のために使う」っていう文脈だと、 ダメに見えちゃうんでしょうね。子どもが直接使うっていう概念を、当時は僕自身あんまり持ててなかった。その目線で見たらアリだって気付くのは、結構後になってからでしたね。
中村:なるほど。年々(eboardは)先生の声を聞かなくなってきてますからね(笑)。特別支援や日本語支援の先生など、子どもとの個別の関わりが前提の場合は違うんですが、そうではない「先生の総意」として聞いちゃうと、「授業で教える」とか「管理する」とかに走りかねないと思うんです。いかに効率よく指示を出すかとか、チェックできるかとか。eboardは、別にクラス全員に使ってもらいたいとも思っていないし、1番使われるものにならなくて全然いい。他のツールや手段だと難しい子に、それが少数であっても、使ってもらえるものをつくりたいですね。
▲ eboardの映像授業につけられた、やさしい字幕。ろう・難聴の子以外にも、音声の処理が難しい子、感覚過敏の子(無音にして字幕を見て学ぶ)など、多様な子の学びをサポートしている。
中村:先導の事業の後、私の中ではコロナまで「中だるみ感」というか、eboardの事業としても、伸び悩んだ時期だったと思っているんですが、2人はどうでした?
稲田:そうですね。「まなポケ(まなびポケット)」は、2017年に正式にスタートしましたが、正直前に進めていない感じでしたね。当時のまなポケのアプリは、スクールタクトとeboard。「2つじゃやばい」ってことで、自分が作ったBANSHOT(バンショット)を追加して3つ。ここにいる3人で作ったやつですね(笑)。
中村:そうでしたね。(まなびポケットとシステム連携できるアプリは)今いくつあるんですか?
稲田:今は30ぐらいですかね。連携したいと言ってくれるアプリも多いけど、対応しきれなくて、待ってもらってるような状態ですね。
中村:いや、すごいすね。当時からは考えられない。後藤さんは、この2017〜19年くらいは、どうだったんですか?
後藤:この間は、まぁ「受託期」ですね(笑)。先導のあとは、まだまだ1人1台は広がらなくて。ごく一部、私学などの1人1台環境で使ってもらっていましたけど、当然それだけじゃ全然売上が上がんなくて。教育分野で受託開発をいろいろやってましたね。いつかは1人1台端末の時代が来るだろうとは思っていたけど、それが何年に来るのかよくわかんない。けど、それまでなんとか頑張ろうみたいな感じでしたね。
中村:言ってた。「もうこれ永遠に来ねえだろ」みたいな感じありましたね(笑)。
後藤:そうそう。 だから、やっぱりその時期は確かに不安な状態で事業してましたね。
中村:いやぁ、わかるなぁ。めっちゃわかる。後藤さんのオフィスに泊まらせてもらってたのも、この時期でしたよね。新宿にオフィスがあった頃、1年間くらい。東京に来た時、月の半分くらい、寝袋引いて寝泊まりさせてもらってましたね。ちょっと歩いたところにジムがあって、そこでシャワーして。いや、まじで、我ながらよくやるな。今絶対できないわ(笑)。
▲ eboardのメンバーで、オフィスをお借りして週末に会議をさせていただいていました。
稲田:あぁ、いたね。そういえば、ずっといましたよね(笑)。
中村:いやほんとね、あの期間耐えられてなかったら、たぶん生きていけてないですからね。まじで助けられましたね。本当にありがとうございました。あとすごく覚えてるのは、多分私が結婚した時かな。稲田さんが、お祝いにめちゃくちゃ高いウナギ屋に連れてってくれて。稲田さんには、eboardとプライベートの節目節目で、ご飯や寄付で応援してもらって。本当にありがたいです。
後藤:いやぁ、でもそれは、eboardの歴史には残らないからね。
中村:いや、今回残すんですよ。だからもう後藤さん、稲田さんは、めっちゃeboardとか中村とか、あいつ今生きてて調子乗ってるけど、全部俺らのおかげだからって言いまくってください。ホントホント。ありがたかったです。
中村:そこからコロナがきて、大変でしたね。
稲田:
コロナでいうと、僕がすごく覚えてるのは「学びを止めない」。総理が一斉休校を発表した日の夜、ちょうどこの3人でウェブ会議してたんですよね、夜中2時くらいまで。その時点で、eboardは元々無償だけど、改めて「休校した学校が無償で利用できる手段ですよ」として、プレスリリースを出していて。問い合わせが来まくって大変だって。
中村:いやぁ、めっちゃ大変でしたね。当時はまだまだ人も少なかったので、人を貼り付けてさばいてもさばいても、終わらないような状況で。
稲田:それを聞いて「これはもう、まなポケもやるしかない」みたいな話になって。それで、その日徹夜して資料とか全部作って、まなポケのコンテンツ事業者にお願いしていったんですよ。そこで、一気に80万人くらいに届けることができたんですよね。あれは、eboardがやってなかったら、できなかったですね。全然発想になかったので。後藤さんのところも、学校行事の支援とかされてましたよね?
後藤:うちも、オンライン卒業式の企画をしました。卒業式ができなくなってしまった学校に、スクールタクトを使った寄せ書きや、卒業式の動画配信を手伝いますって。
中村:
あの時は、コロナがこんなに続くとは思ってなかったですよ。GIGAスクールが前倒しになったのも、この辺りですね。
稲田:
そうそう。だから(2019年の)12月ぐらいから、GIGAの社内外の対応で忙しくて。ただ、その時点では3年で整備していく計画だったのが、1年に前倒しになるっていう話に途中から変わったんだ。 死ぬほど忙しかったですね。
中村:
今でこそ、GIGAスクールで1人1台になってますけど、コロナがなかったら、ここまで広がらなかったですよね。
中村:来年からは、GIGAスクールも最初の更新時期がきますよね。この3年ふりかえって、どうですか?
▲ 1人1台環境の小学校での自由進度学習。それぞれのやり方で、単元の学習を進めていく。
稲田:いろんな意味で、大きく変わった感じはしますね。でも正直、なんか満足できるような変わり方は全然してないですね。 本質的な変化には、まだまだ届かない感じ。なんだろうな。
中村:変わったのは確かですね。休校があけたら、コロナが終わったら戻る、端末全く使われなくなるみたいことよく言われてましたけど、そこまで戻ってないですよね。ただ、それこそ先導の事業の頃に、ある種夢見てたような1人1台の世界観とは、やっぱり違いますよね。
稲田:「GIGA(※)」ってたしか「世界に開かれた」のような意味だったんですけど、「学習者が自分の世界を開く」っていうような文脈、本当はそこが本質だと思うんですけど、 そこは相当遠い感じですよね。後藤さんは、GIGAで環境が整って、これからしていきたいこととか あるの?
※ Global and Innovation Gateway for All(全ての児童・生徒のための世界につながる革新的な扉)
後藤:スクールタクトでは、やっぱり他の人と学びあっていく協働学習を大切にしてきたんだけど、今やりたいのはそれを人だけでなく、AIも含めて、よりいろんな人と学べるように、協働学習の「拡張」みたいなことを、ずっと考えてますね。
中村さんは、どうなんですか?
中村:こうやってふりかえると、伸び悩んでたコロナ前までは「何を作るべきか」が、はっきりしなくなってた時期でしたね。 eboardって無償なので、教育委員会や公立学校に導入されても、お金もらえるわけじゃないんですよね。 企業としてやっていてお金もらえたら「じゃあそこに向けて頑張ろう。もっと売れるもの作ろう」みたいな力が働くと思うんですけど、良くも悪くも、「何を作るべきか」自分たちで考えざるを得ないんです。
それが休校になった時に、学校現場での利用もそうなんですが、個人ユーザーも増えたんですね。不登校の子、外国につながる子、障害のある子、いろんな子が入ってきた時に、子どもを見るようになったんです。もちろん、それまでも見てたつもりだったんですけど、 子ども「だけ」見るようになったという感じ。それは、ICTは自治体単位での導入が基本とか、先生が授業の中で使ってもらうとか、そういう観点からすると悪い面もあると思うんですけど、eboardというプロダクトを磨く意味では、すごく良かったなって思います。
中村:それでは最後に、10年を迎えたeboardに、ぜひ応援メッセージをお願いします!
後藤:私は株式会社、中村さんはNPOという手段が違うだけで「学びをあきらめない社会の実現」という使命感は一緒。今は年に数回しか会ってなくても、きっと同じ方向を向いている、いつも学びをあきらめない社会のために、きっと日々頑張っているという信頼があるので、応援・協力をしたいと思っています。
企業は、仕方ないことですが、市場原理からマジョリティ(多数派)に対してサービスを提供しがちです。eboardがNPOとして存在していることで、マイノリティ(少数派)に対して、学びの選択肢がつくられています。今後とも「誰もが」学べる環境を提供することを期待しています!
稲田:
eboardを応援させてもらっているのは、eboardのサービスや1つ1つの取り組みが「学びをあきらめない社会」というミッションに基づいて、必要とする子どもを強く意識し、活動を続けているからです。
あとは、自分はなんだかんだ市場原理に流されて、一部妥協しながら自分なりのビジョンを追っかけていて、その後ろめたさから、妥協なく邁進しているeboardを支援することで、心を落ち着けている面もあります!人間、誰しも後ろ暗いことはあると思います。胸に手をあてて思い当たる方は、eboardに寄付しましょう。心が落ち着きますよ!(笑)。
言わずともブレなさそうですが、今まで通り、妥協なくeboardを必要とする子どもたちを支える取り組みを続けていってください。
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