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  • 「過疎」という言葉が生まれた地域で。導入1/10,000校目の今 吉賀町教育委員会学習支援コーディネーター 新原大輔さん

    今では、10,000校以上の公立学校に届けられるようになった ICT教材eboard。そのeboardを公立学校として初めて導入したのは、「過疎」という言葉が生まれた地域(※)にある島根県の小さな町でした。地域をフィールドに10年前に始まった、今でいう「個別最適化」「自由進度学習」の取り組み。そのキーマンとなった吉賀町教育委員会学習支援コーディネーターの新原さんに、お話をお伺いしました。

    ※ 吉賀町に隣接する益田市匹見町(旧・匹見町)が「過疎発祥の地」と言われている。

    • 新原 大輔さん

      吉賀町教育委員会学習支援コーディネーター

      新原 大輔さん

      首都圏の教育NPOでの経験を経て、2013年より、主に中学生の学習支援を担当するコーディネーターに。自身も都市部からの移住者として、10年間主に学校外での学習支援の取り組みを推進。

    人口6,000人の町と教育魅力化

    中村:私自身、それまでは島根県に何のゆかりもなく、1度も来たことすらなかったのですが、新原さんも初めてお会いした2013年に、島根に来られたと記憶しています。改めて、新原さんが吉賀町に来られた経緯から、聞かせてもらっていいですか?

    新原:島根県では、以前から高校魅力化の事業をやっていて、前職のNPO で働いている時に、人づてに紹介してもらったのが、最初のご縁です。関東で教育の取り組みをしていた時に、何か仕組みを変えるには、特殊な環境じゃないと難しいかもしれない と思ったところがあって。例えば、まさに人口減少が著しくて変わらざるを得ないとか、当時で言うと震災後の東北とか。何かそういう変わらなきゃいけない環境じゃないと、「新しいこと」との相性が良くないのかなと思って、島根に来させてもらいました。

    島根県における「教育魅力化」とは:
    生徒の定員割れから、統廃合寸前にあった島根県立隠岐島前高校が魅力的な学校・地域づくりの取り組みを通じて、日本全国から生徒を集めるようになり、V字回復を実現。島全体の活性化にもつながった。現在は、こうした魅力化の取り組みが、島根県内だけでなく全国の離島・中山間地域にまで広がっている。

    中村:そこで、現場に入られて1年目、赴任されて早い時期に、新原さんからeboardに問い合わせてくれましたよね。初めて、当時のeboardを見た時の印象って、どんな感じだったんですか?

    新原:アメリカのカーンアカデミー(※)を見て、日本でもこういうものが使えたらいいなと思って。それの日本語版のようなものはないか探してたら、eboardが見つかって。すぐ問い合わせましたね。この後どれぐらいで完成するのかとか、どういう感じで今後進めていくのかというところを聞きたいなって思いました。
    ※カーンアカデミー:2008年にサルマン・カーンにより設立されたアメリカの非営利団体。映像授業と練習問題で学習ができる学習ソフトや教育者向けのツールを提供しており、世界中の誰でも無料で利用することができる。

    中村:そこから、夏休みのトライアルから1年目の取り組みがスタートしましたよね。(高校)魅力化や中山間地域の課題とも関連するところだと思うんですが、そもそもeboardを使った取り組みをスタートした背景って、どんなところにあったんでしょう?

    ▲ 2013年の夏、中学校のパソコン教室を使ったeboardでの学習がスタート。当時のeboardには、中学生の数学・英語、小学生の算数しかありませんでしたが、生徒が自分のペースで映像授業を見ながら、デジタルドリルで学習を進める、今でいう、ICTを活用した個別最適化、自由進度学習の取り組みでした。

    新原:赴任した時に、学力向上を教育長から宿題としてもらっていました。関東では、学習支援の活動をしていたから、その経験を活かして取り組みを考えてほしいと。最初はやっぱり都市部でされているように、大学生を呼んできてみたいなことを少しトライしてみたんだけど、早い段階でやっぱり地理的に無理だと思って、別の方法を探し出したっていう感じですね。

    中村:いやぁ、今でも、初めてeboardを使ってもらった瞬間の達成感というか、同時に違和感というか、覚えてますね。見たことも、聞いたこともない地方の学校のパソコン教室で、自分が家で作ってきた教材を使って、中学生が一斉に勉強始めるわけですよ。しかも、みんな見事に個別に、自分のペースで進んでいく。課題はたくさんあったけど、「これは本当に価値があるんじゃないか」と思えた瞬間でした。


    中村:一方で、今でこそ学校に1人1台の端末がありますけど、そういう新しいものを持って行く時って結構抵抗があったと思うんですけど、どうでした?

    新原:はい、とてもありました。まず そもそもあの頃って、高校魅力化やコーディネーターという仕事自体が、まだ「よそ者」で、異物への拒否感がありつつ、かつそこにICTへの拒否感が掛け合わさって。「望まれてない感」はすごかったですね。学校も、まだ「コミュニティスクール(※)」のような考えも浸透してなかったし、「地域と一緒に」みたいなところも、まだ今ほど言われてなかったから。もう三重苦みたいな感じでしたね。
    ※コミュニティスクール:地域住民が学校運営に参画し、学校と一緒になって運営できる仕組みや考え方を有する形態の学校のこと。

    中村:そうでしたね。思い出してきました…泣

    開発する ⇄ 使う ⇄ フィードバックループの二人三脚

    中村:当時の取り組みについて、もう少しふりかえっていきたいんですが、私が覚えてるのは、もう子ども達に勉強してもらうために、eboardに関係なくなんでもやってたなという記憶で。当時、夏休みや週末に、各学校の状況に合わせてeboardでの学習の時間をとってもらっていたと思うんですが、来てない子の家に迎えに行ったり、なぜか私も一緒に保護者面談したり。受験前に特別授業したりもしました。eboardの仕事で生授業したのは、あれが最初で最後です(笑)。

    新原:当時は右も左もわからず、色んなことに挑戦して、色んな人に怒られていました。eboardの利用に限定せずに、学習に関わる色んな事を一緒に取り組んでくれる中村さんやスタッフのみなさんは、とても心強い存在でした。
    中村:保護者面談させてもらった蔵木中学校も、廃校になっちゃいましたよね。取り組みの1年目、夏休みのトライアル期間中、1ヶ月間学校近くに泊まらせてもらったのが懐かしいです。夜になると本当に真っ暗で、夜な夜な新原さんと「次回はどうする?」って打ち合わせしたのを覚えてます。



    あの頃eboardもそこまで完成してなくて、すごい覚えてるのは、前日の夜までコーディング、開発して、それを翌日に子どもに使ってもらうっていう。その子どもたちの反応を一緒に見て、次の週また来るときに更新して持ってくるみたいなことやってましたね。広島駅の漫喫(漫画喫茶)でデプロイ(システムの更新を反映すること)してましたもん。でバグがあったら、学校でロールバック(取り消し)するという(笑)。

    新原:いや、今思うとほんとすごいなって思います。今は少しシステムのこともわかるようになったんですが、改めてすごいなっていう気持ちと、悪いことしたなって(笑)。

    中村:そのころは、動画(映像授業)も全部私が撮ってましたからね。「もう1回やれ」って言われてもできる気がしない(笑)。ただ、新原さんとだからこそ、スピード感持って、今も残るeboardのコアな部分ができあがったんだと思います。当時は、まさかそんなに早く公立学校で使ってもらえるとは思ってなかったので、これはチャンスだと思って、本当に死に物狂いでやってました。

    その後は、週末だけでなく、放課後学習とか不登校支援とか、いろんな形で使ってもらってると思うんですが、eboardの位置づけ、捉え方って変わったりしましたか?

    新原:そうですね。最初のころは「これで何でもできるかも」みたいな期待があったんだけど、でも割と早い段階で、これはやっぱり使いどころ、使い方が大事だなって気づかされました。全部eboardに頼るんじゃなく、教材ありきじゃなく、必要だと思った時に使わせてもらうようになってからは、その前提の元でいろんな場面で使わせてもらっています。

    中村:そこから、2014年にはお隣の津和野町の公営塾で使ってもらうようになって、2015年には蔵木中学校にいた校長先生が、益田市の教育委員会にうつられたことで、地域や放課後での取り組みがさらに広がりました。2015年からは総務省の実証事業に関われるようになったのも、島根での取り組みを目に留めてもらったことは、大きかったんです。

    毎年夏休みの期間に、コロナ前まではeboardの合宿をさせてもらうようになって、eboardにとって、島根は特別な場所になりました。

    ▲ 2013年からコロナ前まで、eboardのスタッフは夏休みに島根県で合宿をさせてもらいました。eboardを使っていただいている現場に、できるだけ多くのメンバーが関わると共に、地域・社会教育のフィールドに混じって、学習の背景にある学校や地域に触れる貴重な時間でした。

    10年たった今も「これ、いいよ」って子どもに言える教材

    中村:それでは、最後になりますが、10年を迎えたeboardにメッセージをお願いします!よければ、今eboardは、たくさんの現場で使われているので、大先輩として、ひとこといただけると(笑)。

    新原:そうですね。eboardは、10年たった今もおすすめできる教材で、だからこそずっと使ってきて、今もやっぱり使う場面があるし。状況によって使わなかった年もあったりしたけど、今でも間違いなく「これいいよ」って子どもに言える教材です。

    あとは、ここが合うとか、合わないとか、使う子と一緒に進める側の立場だったら、その感想を子ども本人に聞いてみるのが、一番いいです。特に今はいろんな教材とも比較できるようになったと思うんで、(教材によって)得意なところ、苦手なところとか、あとは思想というか、なんかそういうのもきっと伝わってくるものがあると思うんで、試しながら使ってもらうといいんじゃないかなと思います。

    eboardへの応援メッセージとしては、「今も、いつもお世話になってます」ということで。これからもサービスを続けてください、っていうのは 今も使ってますし、選択肢として、eboardがあるっていうのは、本当に頼りになってます。これからも引き続き、頑張ってください。応援してます。

    ▲島根県での活動では、中学生と語り合う時間もたくさんいただきました。

    中村:ありがとうございました。今になって思うのが、20代にeboardを通じて、島根に関わって、しかもどうしても長く滞在していると、仕事だけじゃない関わりをする部分も多くて。そんな人とのつながりが、今の自分やeboardにすごく影響しているなと思います

    今はどうしても、たくさん使ってもらっているうちの1校になってしまう面があるんですが、公私問わず、島根とのつながりを大事にしていきたいと思っているので、また遊びに来させてください!

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